ガチで婚活三十路前 〜人生唯一の恋バナ編〜
quatre-vingt-quatre
元カレ佐伯明生とは大学で出逢った。
彼は南部にある公立高校の出身で、県庁所在地の隣町であるK市にご実家がある。同じ学部で選択授業もよくかぶり、入ったサークルも同じ、気付けば彼を含めた五人くらいのグループで共に行動するようになっていた。
たまたまなのだが、グループ内に女の子がいなかったせいで最初のうちはやっかまれてしまっていた。同性の友達がなかなかできなくて、グループ仲間たちにはずいぶんと心配をかけていたようだ。かと言って表立っていじめられていた訳ではないし、授業以外の接点も無かったので正直そこまで気にしていなかった。同じサークルには恩さんと部長がいたし、その繋がりでサークル内では普通に仲の良い女の子もいた。
『何かあったら頼って良いからね』
明生君は時々そんなことを言って私を気遣ってくれていた。
『大丈夫、被害は被ってないから』
実際被害は無かったのでそう言ったんだけど、彼は心配かけまいと無理しているのでは? と深読みしていたらしい。
そんなある日……まだ一年生の頃だったと思うんだけど、その時たまたま選択授業の都合で単独行動をしていた。そこをつけ狙っての行動だと思うのだが、ぶっちゃけ見覚えのない女子学生数名にいきなり声をかけられた。
『このあばずれ、
ん? 何言ってんだコイツら? 身に覚えの無さすぎるいちゃもんに正直返す言葉もない。降谷
『何言ってんです? 降谷君彼女いますよ』
『その彼女がアタシなのよっ! 彼の周りでちょろちょろしないでちょうだいっ!』
よくそんな嘘吐けるよな、マジカノならA大学にいらっしゃるというのに。
『あぁそうですか、ならこんな所にいないで……』
降谷君に付きまとって嫌われろくらいのことを言ってやろうと思ってたら、授業を終えた明生君と降谷が私のいる所にやって来た。待ち合わせ場所にしてた食堂に行けてない状態だから覗きに来てくれたようだ。
『何やってんだ? 限定定食売り切れちゃうだろ?』
痩せの大食い降谷が不機嫌そのものといった表情でそう言ってくる。いえ私だってこんなのに足止めされてなけりゃ限定定食食いたかったさ。
『ゴメン、ちょっと立て込んじゃって』
ついでだからこの女何とかしてくれ。
『降谷君、よくこんなブスと付き合えるわね』
うん、私がブスなのは合っているがこの男見せかけと違って超絶口悪いぞ。
『どのブスのこと言ってんの? アンタ以上のブスここにはいないけど』
降谷は自称彼女とやら(名前知らない)に暴言とも取れる言葉を返す。彼顔立ちはてつこ系で中性的美青年ってやつなんだけど、口悪い性格悪いそのくせ外面は死ぬほど良いクズ男君なのだ。
『私よりこの女の方がブスじゃない!』
自称彼女とやらの取り巻き女子その一が加勢してる。あの~時間掛かりますコレ?
『鏡貸してやろうか? 凄んげー顔してんぞアンタ』
『ちょっと何て言い草なのっ! 顔が良いからって調子に乗らないでよね!』
え~、取り巻きまだいたのぉ?
『俺別に普通だぞ、アンタらよりはマシってだけでさ』
うん、これ以上火に油を注ぐな降谷。
『ヒドイ……』
と泣いてみせてる自称彼女、マジ泣きだか嘘泣きだか知らんが面倒臭い。降谷も多分似たようなこと思ってんだろうな。
『あ~あ、女の子泣かせるなんてサイテー』
『○○(マジで憶えてない)ちゃんに謝りなさいよ』
『何小学生みたいなこと言ってんだ? その前にアンタら五条にあばずれだぁブスだぁ好き勝手吐かしてたじゃん。こっちに謝れっつうんならそっちも五条に謝るのがスジってもんだろうが』
降谷は私の二の腕を掴んでひょいっと立たせてくれる。これ以上の長居は無用だってことなんだろうな。
『『『……』』』
『まっ、その気は無さそうだけどな』
降谷の言葉に明生君がみたいだね、と返してる。
『ただ勘違いしないで。五条は
『『はぁっ?』』
そんな嘘要ります? 寝耳に水の発言に驚いてしまう。しかし明生君は行こうか、としれっとした態度で一人先に歩き出した。私と降谷も後を追いかけ、女どもは取り敢えず放置しておいた。
『限定定食、売り切れちゃうかもね』
『そうなったら五条のせいだ、午後の授業終わったら何か奢れ』
『何でよ? 事故よあんなの』
軽~く私のせいにしないでほしい。さっきは庇うような発言してたのに、都合によっちゃ全く違ったことを言ってくる。この男のこういうところ油断ならないわ。
『それよりさ、お前らコソコソしてないで堂々と付き合えばいいじゃん。いきなりあんなの聞かされたら心臓に悪いよ』
『いえ何言ってんの? 付き合ってないわよ』
そう言ったけど降谷は照れない照れないと完全に面白がってやがる。
『その辺のことは個々で好きにやってくれって話だな、っと着信だ。はいは~い、……あ~一個かぁ。……それ俺がもらうわ』
通話の感じからすると多分食堂組の連中だと思う。代わりに並んで限定定食一食分をゲットしてくれたのだろう、今日の感じだと降谷の胃の中に納まりそうだな。
『おぅ、さっき合流した。限定定食売り切れだって』
売り切れじゃなくてお前が食うんだろ? まぁ別に良いんだけど。う~ん、雑穀米な気分だからCランチにしようかな?
『Cランチにする、まだ残ってるかなぁ?』
『多分大丈夫だろ、五条はCランチな。……もう着くと思う、はいは~い。Cランチ残ってるってさ、女子ってああいうの好きだよな』
降谷はケータイを操作しながらちょっと渋そうな表情を見せている。あぁこの男雑穀米苦手だもんねぇ。先述したA大学の彼女さん、最近オーガニックだのマクロビオティックとかいうのにハマってて『今そんなのしなくても……』ってボヤイてたもんなぁ。
『何にせよ健康なのが一番じゃない』
『まだ十代なんだから肉食ったって問題無いじゃないか。最近外食でもわざわざ肉除けてんだぜ、『作った人に失礼だろ』って言ったら『みんなやってる』とこうだ。考えてもみろよ、食べられるために捧げられた命をわざわざ棄てるんだぞ。自分の健康を大事にするのも良いけど、命を頂いてることを蔑ろにしてまですることかよ?』
まぁ確かにそうよね、時々マトモなこと言い出すから侮れないわ。食堂に着くや否や降谷は仲間を見つけてさっさと合流していったが、先を歩いていたはずの明生君は何故か入り口手前で立ち止まっていた。
『ゴメン、待たせちゃって』
『気にしなくていいよ、それよりさっきのことだけど』
あぁ、アレはあの場から離れるための方便だよね? まさか彼みたいな人が私と付き合おうなんて思うはずがない。
『気持ちは真剣だから、ゆっくり考えてほしいんだ』
『……は?』
いえ待って、今そんなこと言わないで。
『君の気持ちが落ち着くまで待ってるから』
彼は優しく微笑んで、私の手をそっと取った。
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