soixante-sept

 郡司君の件も一段落したし(まだ連絡来るから現在拒否設定中)、今は野村君がセッティングしてくれることになった合コンを楽しみにしておこう。彼を含めた三人での参加ということなので、私は安藤と有砂に声を掛けた。安藤の方は事前に話してたからすんなりOKが出たけど、珍しく尻軽の方がNGでして。んで東さんと睦美ちゃんにも声掛けしたけど二人共ご予定があるとのこと。

 ‎ん〜ここへきて一人捕まらない、と思ってたところに妊婦な集団が葉山家に集合してるという情報をゲット。情報源はサク、今は秋都、ゲン、ミッツといういつもの四バカで新作ゲームを家でしてる状態。冬樹は午前中だけ学校、姉は勤務明けで睡眠中。

「ちょこっとだけ葉山家に行ってくるわ」

 ‎おぅ。私は秋都に声を掛けてから、斜め向かいの葉山家にお邪魔することに。

「こんにちは〜、妊婦じゃないけど遊びに来ましたぁ」

『は〜い、勝手に上がっちゃって〜』

 ‎梅雨ちゃんの声に誘われて勝手知ったる葉山家にお邪魔する。多分客間だろうなと思い奥に入ると、妊婦な集団こと梅雨ちゃん、桃子、まりちゃん、ミトちゃん、そして妊婦じゃないあかりちゃん、時雨さん、栞も一緒にベビー雑誌を広げていた。

「こんにちは、家男臭いんで逃げてきました」

「ダンナがお邪魔しちゃってスミマセン、なつ姉様も一緒にお茶しましょ」

 ミトちゃんは甲斐甲斐しく私の分の日本茶を淹れてくれる、もう四人ともお腹の膨らみが目立ち始め、梅雨ちゃんに至っては臨月に入ってる。聞いた話だと遅くとも年内に産まれるんじゃないかって。遊園地で会った頃に安定期に入ったばかりだったから、時の流れの速さを妙に実感致しますわぁ。

「こちらも召し上がってくださいな、あかりさんが持ってきてくださったんですよ」

「ありがとう、遠慮なく頂きます」

 ‎私はあかりちゃんのお土産という焼き菓子の個包を一つ頂く。見たことの無いデザインの包みで中はマドレーヌ、一口で食えそうな可愛いサイズのものだけどここは味わって頂こう。

「どこか旅行にでも行ってたの?」

「母が婦人会の慰安旅行に。沢山買ってたからお裾分けで貰ってきたの」

 ‎彼女は北部の城址公園近くにご実家があり、そこの市内にあるミッション系の女子高でまりちゃんと知り合ったそうだ。てつこの元カノの後輩って今それはどうでもいいな、私その子とはそこまで親しくないし。因みに個包の裏側を見ると南の島にある県名のお菓子で、ほんのり柑橘系の甘酸っぱさが良いアクセントになってる。

「南の島に行かれてたの?」

「ううん、D県でお菓子の博覧会があったらしくてそこで買ったって。来年城址公園がそのイベントの会場になるから視察も兼ねてって言ってた」

「来年かぁ、行こうかな?」

 ‎県内でそんなイベントがあるんなら行くでしょ、来年の話をすると鬼が笑うらしいけどそんなもん知るか。

「なら一緒に行かない?」

「えっ? 私でいいの? 彼氏さんとか」

「いないわよ残念ながら。でもいたところでこういうのは絶対一緒に行かないことにしてるの、男の人って用が済んだらあとは興味無〜いって感じになるでしょ? アレがムカつくから女同士限定」

 ‎やった、こういうのって一人で行くより誰かと行った方が楽しいもんね。あかりちゃんなら地元っ子だし、脇道逸れて城内博物館へ行くのも悪くないな。城下町の穴場とかも知ってそうだな、ってか彼女結構こさっぱりして付き合いやすい子なのに彼氏が居ないとかちょっと意外。

「ちょっと先の話だから忘れないようにしないと。ところで彼氏さんとか居ないんなら合コンあるんだけど来ない? 来週の金曜十八時からなんだけど」

 ‎これは誘う一択でしょ。出会い方が最悪だったから二流とか思っちゃったけど、それは梅雨ちゃんが女優クラスの美女だからってことで。安藤もだけど一般レベルでは十分美女の部類に入る、私が両手に花状態じゃないって感じ。

「仕事が十八時上がりなんで、ちょっと遅れるけどそれでも良ければ」

「ならそう伝えとく、場所は……」

 ‎私は最後の一枠にあかりちゃんをはめ込み、合コンの詳細を伝えると乗り気になってくれた。やっぱり司法書士ってモテるのね、人数も揃ったしあとは来週を待つのみだわ。


 この日を楽しみに仕事を乗り切り、昔で言えば花金なんて言葉があった金曜の夜。安藤と職場最寄り駅で待ち合わせしてすぐ裏手のダイニングバーに向かうと、既に野村君を始めとした三人組が到着して横並びに座っていた。

「こんばんは、お待たせしました」

 ‎ほぼ定刻に来たけど一応礼儀として……ね。

「大丈夫だよ、俺たちもさっき来たところだから」

 ‎座って。私たちは勧められるまま向かいの席に座ると……。

「いつぞやはご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした」

 ‎安藤が向かいに座ってる野村君に頭を下げた。

「いえ、あなたがご従兄弟の行動に責任を感じる必要はありませんよ」

「でもきちんとした謝罪も出来てなかったので」

「‎そのことについてはあなたも被害を被っているんです、新郎側のご親族の方が風当たりもキツかったでしょうから」

 細かい事情は分からないけど安藤と野村君は面識があったようだ。この感じだとカップルになるのは無理そうだなぁ、合うと思ったんだけど。両隣方々は美女安藤に興味は示してらっしゃるんで頑張ってください、私給仕係に徹します! お料理作るのは苦手だけど取り分けはちゃんと出来るからね。

 ‎んで仕切り直しての自己紹介、野村くんを挟んで右側にいらっしゃるのが雨宮あめみやさん三十歳、左側にいらっしゃるのが水科みずしなさん二十八歳、お二人とも今年資格をお取りになったそうで。社会人になってもお勉強に勤しめるってだけでもう尊敬する、私オベンキョウシタクナイ。

「五条さんって野村と同級生なんだよね、結構親しくしてたって聞いてるけど」

 ‎う〜ん、そこまでじゃないんだけどなぁ……彼が気さくな人ってだけで誰とでも話をするタイプだから友達百人をも地でいってるんだと思うよ。

「野村君って生徒会長だったし、同じクラスの子全員とはまんべんなく親しかったんじゃ……」

 ‎分からないけど正直に思ったこと話してるのに、雨宮さんは変な表情で私を見てくる。何かおかしなこと言いました?

「いえいえ、この男めちゃくちゃ選り好みしますよ」

 ‎は? そんな印象全然無かったけど。

「えっ? そうなんですか?」

「あれ? 全然伝わってませんよ先輩」

 と水科さんが野村君を横目で見てニヤッと笑ってる、何なんだろ? 当の野村君は特に何を言うでもなくそう言えば、と私に顔を向けてきた。

「最近郡司一啓がこっちに戻ってきたって聞いてるんだけど。しつこく言い寄られたりしてない?」

「うん、もうお断りしてるから」

 未だに着信あるけどもう無視だ、それにその事について野村君は一切関係が無いので詳細は割愛。

「何かあったら遠慮しないで、力になれる事もあると思うから」

 いえ多分無いと思うよ、何かあってもあの程度なら多分投げれる。まぁしつこそうだから久し振りに石渡組先代が運営してる道場にでも通おうかな?体なまってる可能性もあるし。

「ありがとう、お気持ちだけ頂戴するね」

 ぶっちゃけてしまえばお気持ちも遠慮させて頂きたいんだけど……だって彼弱っちそうなんだもん。きっと二度手間みたいな感じになる、まずはご自分の身を大事になさってください。

「こんばんは、遅くなってすみません。種田あかりと申します」

 お〜これで役者が揃ったね。あかりちゃんと安藤も挨拶を交わし、奥に座っている雨宮さんがあかりちゃんに、通路側に座ってる水科さんが安藤に興味を示してる。安藤と私は一旦席を立ってあかりちゃんを奥に座らせ、三対三の合コンが和やかに進んでいく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る