ガチで婚活三十路前 〜エリンギ頭のドラ息子編〜

vingt-trois

 それから何日か経ったある日、幼稚園から中学までの同級生で電気屋の息子てつここと中西哲なかにしてつがひょっこり家を訪ねてきた。

「最近見ないけど元気してるか?」

「うん、そっちはどう?」

「まぁぼちぼち。それより先週末辺りに同窓会の案内はがき来てたろ? 俺速攻欠席で送り返したけど」

 そりゃあ今更あんな居心地の悪い環境に身を置きたくないわな。考えてる事はほぼ一緒の様だ、有砂も欠席にしたってメールあったし。

「有砂と私も欠席。有砂は仕事だって言ってた、私も法事と上司の送別会があるし」

「ウチ長男家庭だから盆時期って親戚集まって忙しくなるから普通に無理だよ。なつんとこだって盆時期はご両親の墓参りとか色々あんだろ?」

「うん、大分簡素にはなったけどだからってあそこに行く時間は勿体無いわ」

「言えてる。まこっちゃんらも同じこと言って欠席で送り返したってさ。厚木あつぎ先生の事は別の日に俺たちだけで何かしようや」

「うん、そうだね。正直今じゃなくてもいいもんね」

 私たち“島エリア”の同級生は七人しかおらず、女は有砂と私だけだ。あとは今いるてつこ、テーラーのまこっちゃん、ケーキ屋のこうた、僧侶のげんとく君、お茶屋のぐっちーの男の子五人、揃いも揃って大人しめの性格なのでちょいちょい嫌な目にも遭ってきてた。

 ただまぁ腐っても“島エリア”男子、大人しいのも表向きだけだから最後の最後で“街エリア”の男子児童全員を返り討ちにしてたけど。同窓会するなら七人でだけでいいわ、それが多分本音だと思う。その言葉通り私たち七人は年に数回顔を合わせて近所の居酒屋へ飲みに行ったりしてるから。

「そうだてつこ、一二三憲人ってどんなだったっけ? 全然覚えてないのよね」

「うへぇ~、あれ忘れるって相当だな。俺六年間女扱いされて屈辱的だったから嫌でも覚えてるぞ。なつだって『なっちゃん顔じゃない』って六年間欠かさず言われ続けてたんだからさすがに忘れてないと……その一二三憲人がどうかしたのか?」

あ~あの糞ガキかぁ……間違った『継続は力なり』ヤローでしたか。私は保科酒造の利き酒バーであった出来事をざっくりと話した。

「へぇ、ウザい奴って大人になってもそう変わらないんだな。にしたって職場の会長ってサラリーマンやOLじゃ普通お目にかかれない存在なんじゃないのか?」

「ううん、ウチの会社は全然。暇そうに色んな部署に入り浸っては邪魔者扱いされてるよ」

「うわぁ~、海東文具の会長だろ? 結構な財界人って聞いてるけど」

「うん、人脈は物凄いよ」

「俺なつを敵に回すのやめよう」

 とそんな話をしていると秋都がアルバイト先から戻ってきた。

「ただいまぁ~、あれ? てつこちゃん久し振り、相変わらず美人だな」

「やめいちっとも嬉しくない」

 てつこは子供の頃から周囲が振り返るくらいに可愛い顔をしていて、普通に男の格好してるけど男にナンパされまくってる女には羨ましい奴なのだ。

「何で? 俺てつこちゃんなら抱けるぞ」

「俺は嫌じゃ! いくら秋都がイケメンでも男に掘られるのは勘弁!」

「試してみる価値はあんだろ、俺男抱くならてつこちゃんって決めてたんだ」

「そんなもん勝手に決めんな! もう帰るわなつ、仕事も残ってるし」

 てつこは逃げる様に家を出ていった。秋都はこれまで女の子としか付き合っていないはずなのに、てつこにだけはちょいちょいああいう事を言ってる。本人曰く『気が合えばどっちでもオッケー!』らしいので一応バイと認識してるけど。

「あ~また逃げられちった」

「そりゃそうでしょ、てつこゲイじゃないんだから。アンタてつこと付き合いたいの?」

「てつこちゃんさえ良ければ。そこらの女よか可愛いし料理美味いしさ、小柄だから抱き心地も良さそうじゃん。まぁハグもさせてくんねぇけど」

 てつこは電子レンジとかIHとかの実演販売の為そこそこ料理は出来るのだ。んでそれがまた美味いもんだから商品が売れるのは良いが、男にモテるという要らんオプションのせいか顔も性格も良いのに独身彼女無しという案外可哀相な奴でもある。

「お前彼女いるだろうが」

「それとこれとは別、今カノ何気にビアンでさ」

 そうなの? 何かややこしいな。

「だからって訳でもないだろうけどお互い浮気しても修羅場になんねぇんだわ、『目移りくらいはするでしょ?』程度の感じ。それで一年半持ってんだから相性は悪くねぇと思うんだ」

 まぁこればっかりは当人同士にしか分かんない事だからねぇ、でも秋都とこんな話するの初めてだ。

「でもちょっと寂しくない?」

「う~ん、楽ではあるけど物足んねぇとは思う。嫉妬して時には感情撒き散らして大喧嘩すんのも恋愛の醍醐味だったりするだろ? それが無いから時々何考えてんのかさっぱり見えなくなる」

 今日の秋都はいつになく大人に見える。恋愛偏差値は私よりも相当高いと思う。

「でもまぁ乳デカイし挿れ具合は最高だからセックスには満足してる」

 あっそう、見直して損した。


「この店どう思う?」

 今日は職場の一般職OL四人で軽く飲み会。この度直属の課長が定年退職となり、送別会会場の下見も兼ねている。メンバーは先輩の椿水無子つばきみなこ、後輩の八木睦美やぎむつみ、弥生ちゃん、私の四人。

「ここ最近出来たんですよね? クーポン雑誌に『NEWOPEN』って紹介されてて気になってたんです」

 と睦美ちゃん。雰囲気は完全に女子会向けだと思うけど。

「座敷席とかあるのかな?」

 弥生ちゃんは辺りをキョロキョロしてる。階段でも探してるのかな?

「貸し切りが可能なのよ、それなら他のお客さんを気にしなくていいじゃない? あとは料理の味」

 もうここに決めちゃってないです? 水無子さん。でもまぁ彼女課長とは前に所属していた広報課からの付き合いだから好みはよくご存じで、あとは辛いものが苦手な私の口に合うかってところかな?

「夏絵の口に合えば課長も大丈夫だと思う、ご病気さえなければ元々辛いものはお好きだから」

 そう、ここはエスニック料理店。とにかく辛いものはご勘弁ください。

「カプサイシン攻撃はどうかご勘弁を」

「辛さ抑えめの『マイルドコース』っていうのがあるらしいですよ。クーポン雑誌情報ですけど」

「今日はそれを予約してあるの」

 さすがは水無子さん、下見と言いつつバッチリ予行演習じゃないですか。ってかここに決めちゃってますよね?

「男ども納得しますかね?」

 ウチの課は何気に男性社員の方が多い。『もっと大衆居酒屋みたいな所の方が』とか言ってきそう。彼らの選ぶ店ってタバコ臭くて正直げんなりするもの。

「別にそこどうでもいいじゃない? 砂糖と塩テレコにした玉子焼き出したって違いに気付きもしないクズな舌しか持ち合わせてない連中ばっかなんだから」

 イヤイヤそんな奴いないって! いたら速攻病院に行ってください! でもまぁ水無子さんの舌は割と信用できるのでこの店はきっと大丈夫だと思う。何気に課長こういうお店お好きだからね、娘さんと仲良しで親子で飲みに行くって仰ってたし。

「いらっしゃいませ。本日のご予約ご来店誠にありがとうございます」

 アジアンテイストな衣装を着ている若い女性店員さんが一人一人におしぼりを手渡ししてくれる。私たちはベトナム産のビールを注文し、程なくして料理と一緒に運ばれてきた。うん、見た目辛そうじゃなくてちょっと安心。

「これなら大丈夫そうです」

「良かった、冷めないうちに頂きましょう」

 水無子さんのひと声で私たちは料理を頂く事にする。見た感じ中華料理に東南アジア系の料理、沖縄料理っぽいのもある。私はまずミミガーのサラダを頂く。ごまドレッシングかと思ったらピーナッツドレッシングか、これ美味いわ。

「美味しいですね。課長結構グルメですからいいと思いますよ」

 睦美ちゃんも野菜炒めを美味しそうに食べている。これ白ご飯欲しくなる。私たちは思い切って白ご飯を注文し、案外ご飯に合う料理たちに舌鼓を打っていると……。

「五条夏絵!」

 またお前かよ。

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