突発的キャラクター論

水乃流

他人のキャラクターをテーマにすること

●お題としてのキャラクター


 「カクヨム三周年記念選手権」(以下、KAC)10日目のお題は、『カタリ』or『バーグさん』。


 最初に見たときの素直な感想は、なに? だった。詳細を読むと、どうやら「カタリィ・ノヴェル」と「リンドバーグ」というふたりのキャラクターらしい。そういえば、一年前にキャラクター募集やってたね。興味がなかったので、スルーしていたよ。でも、お題として出たなら、どんなキャラクターなのか調べないとね。そう思って読み進めると、「キャラクターの詳細についてはこちら」と別ページのリンクが。そして、そこに跳ぶと、二周年キャラクター募集結果発表のページが表示された。

 ……つまり、昨年の受賞作を読んでキャラクターを把握せよ、と運営は考えたわけだ。この時点で、私はKAC10を投げた。その後、さすがにこの対応はないと運営も思い直したのか、ふたりの簡単なプロフィールを掲示するようになった。やるなら最初からやれ、と思わずにいられない。


 しかし、なぜお題がキャラクターなのか。これまでKACで出されたお題を列記すると、


▼1日目「切り札はフクロウ」

 フクロウではなく、それを切り札として使うようなシチュエーションを作り出す。

▼2日目「2番目」

 初日と異なり抽象的なお題ではあるが、その分想像を働かせる余地が大きい。

▼3日目「シチュエーションラブコメ」

 いきなりのジャンル指定。素直にラブコメにするか、それとも捻るか。

▼4日目「紙とペンと○○」

 身近な紙とペンに何を絡めて物語るか、作者の嗜好が分かるお題。

▼5日目「ルール」

 再び抽象的だが、いろいろなドラマを考えやすいお題だ。

▼6日目「最後の3分間」

 以前行われた「最後の5分間」テーマのコンテストに参加した人は、イメージしやすかっただろう、

▼7日目「最高の目覚め」

 「目覚め」という誰もが経験するシチュエーション。どのように物語を構築するか、作者の力量が試される。

▼8日目「3周年」

 「2番目」よりも幅が狭くなる、ある意味難しいお題。単なる三年目にしなかったのはなぜか。

▼9日目「おめでとう」

 そして再び抽象的なお題で、さまざまなシチュエーションが考えられる。


 とまぁ、難しいものから比較的想像しやすいものまで、バラエティに富んだお題が出ていたのだが、10日目にしていきなりキャラクターをお題にした意図が見えない。というのも、すでにあるキャラクターをテーマにするということは、つまりそれはなのだから。


●二次創作の功罪


 既存のキャラクターは、自分が考えたものでなければ他人のものである。他人のイメージしたものを自分なりにアレンジを加えたり妄想したりして新たな物語を作る。こうした二次創作は世に溢れていると言ってもいいだろう。


 別に、二次創作を否定する意図はない。著名な作者の中には、自分の二次創作を認めている人もいる。それを得意とする人もいるだろう。何しろ、すでにキャラ設定や世界設定ができていて、他の読者もそれを共有しているのだから。

 しかし、それは広く認知されているキャラクターであれば、の話である。言っては何だが、KAC10のお題として出されたキャラクターが、広く(カクヨムユーザーの中でさえ)認知されていたとは思えない。運営側もそれを知っていて、KAC10を機に認知度を高めようという意図が見える。キャラクターをテーマに小説を書くなら、そのキャラクターについて知っておく必要があるからだ。だがもしそうであるならば、もっとキャラクターの詳細な情報を提供すべきだろう。すでによく知っているキャラクターならばともかく、知らないキャラクターを出されて、「さぁ、書け」と言われても困惑してしまうだけだ。このお題で書ける人はすごいなと思う。いや、嫌みとかじゃなくて。


●キャラクターをお題にするリスク


 自分が好きで、思い入れがあるキャラクターであれば、妄想は果てしなく想像の翼を広げて空想の大空を自由に駆け巡り、物語を紡いでいくことも苦ではない。それは普段からやっていることだから。

 だが、そうではないキャラクターを使って、通り一遍の設定だけで書くということは、ごめん、本当にモチベーションの欠片もない。異世界から勇者を召喚して、モチベの欠片を集めさせたいくらいだ。


 運営側には、これを機にキャラクターを知ってもらいたいという意思があるのだろうが、手法としては理解できるもののリスクが大きいと言わざるを得ない。確かに知名度は上がるかもしれないが、KACに参加する作者にしてみればが残ってしまうからだ。そして、そうした感情はキャラクターへのマイナス感情に繋がりやすい。

 はっきりいえば、既存のキャラクターをお題にすることは失敗であったと思う。これがまだ誰も物語を作っていないような、簡単なプロフィールだけのまっさらなキャラクターであったのなら良かったのにと思う。

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