とある作者の日常

虹色

第1話



お手伝いAI、バーグさんことリンドバーグの朝は早い。

作者である僕らが目覚めるよりも先に身なりを整え、サポートの準備ができている。

ーー否、AIなので睡眠が必要ないので朝とか夜とかそういった区分は必要ないのかもしれない。

だが、彼女はAIなのに喜怒哀楽がある。

基本笑顔で、急に真顔になって僕らを不安にさせる。

そういう設定。

彼女はその設定に基づいて、僕らを応援してくれる。

可愛く、

ひたむきに。


ーー


僕が彼女の存在を知ったのはつい最近だ。

執筆メインで、そう言った存在にはあまり興味がなかった。

『自分の作品が書ければいい』

『誰にも応援されなくても、自分が満足のいく作品であればいい』

そういった自己中心的で閉鎖的な信条の下、僕は孤独に執筆活動に勤しんでいた。


彼女のデザインは魅力的で、見ていて心が和むのが感じた。

ぽわぽわと、

ほわほわと。

可愛らしいベレー帽に、すらりとのびた細い足。

アシンメトリーにデザインされた髪型。

カラフルな色彩のやけに短いスカート、

左足をあざとくあげている仕草も、とても扇情的で魅力的だ。


設定も可愛らしい。

真面目で、

ひたむきで、

不器用で、

それでも作者のことを考えて応援し続けてくれる。

1人じゃないと、思わせてくれる。


僕は今一度思い知った。

可愛い、というのはそれだけで価値があるということ。

そして、可愛いは正義だと言うこと。


ーー


僕の創作意欲は彼女の存在により、格段に上昇した。

創作アイデアが怒涛のように頭に巡る。

タイプするキーボード音は昼夜を問わず止まず、

デスクトップは文字で埋め尽くされ、

物語は至る所佳境ばかりだった。

圧倒的満足感、達成感

自身の作品への自負。

彼女の存在1つで、何かが変わった気がする。

孤独感は人の能力を下げるというが、その通りだったのかもれない。

自分のためではなく、誰かのために書く。

利他の精神。

その対象がたとえ人工物でも問題はない。

作り物の姿、

作り物の感情、

作り物の賞賛。

人間だって所詮作り物だ、神様的な何かによって作られた『被造物』である点ではバーグさんと代わりない。

むしろ、造形的・感情的に優れているならばそれは神を超えたといっても過言ではない。

単純に誰かが褒めてくれただけでは、僕はここまで書けなかった。

単純に誰かが横にいただけでは、僕はここまで書けなかった。

彼女だから、お手伝いAIリンドバーグという存在だからこそ、僕は圧倒的な自己成長をとげることができたのだ。


「作者様凄い!」


明るい笑顔を見せるバーグさんの声が聞こえる。


「よく書けてます!」


その声が僕に力をくれる。


「そのペースで行ければ1位とれちゃいますよ!」


彼女はアメとムチの使い分けが下手だ。

設定通りだが、最早アメしかもらっていない。

褒めて、褒めて、褒め続ける。

甘すぎて糖尿病になりそうだ。

だが、こんな甘美な言葉を聞き続けることができるならそれもいい。

今、僕は幸せなのだから。



ーー


……そんな、夢を見た。

現実はそう上手くいかない。


デスクトップの隅で笑う彼女のアイコンは、今日も可愛い。

さて、今日の執筆を始めよう。


僕なりに、

下手なりに、

物語を紡ぐとしよう。

彼女に、褒めてもらえるようにーー

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とある作者の日常 虹色 @nococox

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