第12話

「やっぱり証拠のブツは見つかりませんねぇ。よく隠してらっしゃる。ねえ、三谷さん」

後ろから一回り年が下回っている田中が話しかけてくる。こちらは事件の書類整理で忙しいというのに。

「ああ、そうだな。まあ捜査してりゃそのうち出てくるだろ」

あちらには目もくれず、書類片手にパソコンに目を向け、適当に流す。

「でも本当にどこ行っちゃったんでしょうねぇ。証拠1つ残さず消えてしまうなんて中々のやり手ですよ。犯人も」

田中は感心するように愚痴を漏らす。

「あ?なんの話をしているんだ?」

「え、三谷さん知らないんですか。あれですよ、赤城っていう男が海で溺死しているのが発見されたやつですよ」

ああ、そういえばそういう事件があったような気がする。16歳の息子が未だに発見されていないっていうあれか。

「だけどあれは心中したってことで片付けられたんじゃなかったか。上もそれで終いだって言ってたような気がする」

「そうなんですよ。上も本当は心中したってことで、息子を捜索して終わらせようとしたらしいですよ。だけどメディアが大々的に報道したお陰で、世間の目もあるってことで、つい最近捜査本部を設置したらしいですよ」

そんなことがあったのか。知らなかった。

「へー。で、時効期間はどのくらいなんだ?」

「確か6年だったか、7年だったか、そのくらいだったと思います」

案外短いんだな。まあ、警察も情けで設置したような本部だ。心中したにしても、息子が見つかればすぐに本部も撤去されるだろうし、少しの辛抱ってことかな。

「そうなのか。誰が担当になったんだ?」

すると田中は拍子抜けしたような、キョトンとした表情になる。

「え、三谷さんじゃないんですか?三谷さんが担当って聞いたので激励の言葉でも言おうかと思って来たんですけど…」

なんだと?俺が担当?そんなこと言われてないぞ。いや、待てよ。確か何か言われたついでに黄色い書類をもらった覚えがあるような...。

机の上に置いてある書類の山から、記憶を頼りに黄色い書類を探していく。

あった...。急いで内容を確認する。明日...会議...。顔から血の気が引いているのが分かる。サーっと冷や汗が吹き出てくる。

「もしかして...、三谷さん...」

ああ、と言葉を返す。今夜は寝れそうにない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る