ファンタジアの魔法騎士―カタリとバーグさん。

星の狼

『黒髪の少女アイリは、ファンタジアの魔法騎士に出会う。』


 黄色の太陽と青い空。朝日を浴びて、白い鳥たちが飛んでいく。私は、西洋風の国ファンタジアに訪れていた。異世界……物語の世界に、いつも来れるわけではない。しっかり準備しても、運が悪い日だと物語の中に入れない。



 私の先輩。先輩は、物語の世界をよく知っている。たった一人で、色んな物語の中に入って、異世界人として役目を果たす。素直に、先輩は凄いと思う。



 私も、先輩みたいになりたい。色んな物語の中に入って、困っている人たちを助けたい。先輩は体力には自信がないって言ってた。それなら、私でもできるはず……。


 

 西洋風の国ファンタジア。先輩が初めて訪れた、物語の世界らしい。この国の騎士隊長、通称髭の隊長。先輩から、私が来ることを伝えてくれている。


 

 待ち合わせの場所は、ここであっていたと思うけど……。


 西洋風の街、噴水のある広場。民族衣装を着た住人たちが、通りを行き来している。私は、長めの茶色のコートを着ていた。今、学生服を着ているので隠したい。


 明らかに、学生服は目立つ。学生服を着たかったわけではない。異世界人と分かる様に、学生服を着てくる様に……そういう指示があった。本当に、先輩からの指示がありました。



 私が、噴水の前で待っていると……誰かが近づいてくる。物語の中で生きている人が声をかけてくる。とても不思議な感覚。ただ、残念なことに……。



《※※、※※※※※※?

 ※※※※※、※※※※※※※※※※※※※※※※※※……。》



 フードをかぶった少年? ぱっと見た感じ……男の子に見えない。かなりの美形。アニメや漫画の登場人物みたい……あっ、そうか。ここは物語の中。この物語の作者は、ごついおっさんより、幼い美少年の方が良かったんだ。うん、それは分かる……。



《※※※※※、※※※※※※※※※。

 ※※※※……※※※※※※※※※※※※※。


 ※※※※※、※※※※※※※※。

 ※※※※※※、※※※※※※※※※※。


 ※※※※※※※……。》



 美少年が、私に古びた紙を手渡す。古びた紙には、文字が書かれているけど……地球で見たことのない文字。まったく読めない。なにも分からないことを伝えるにはどうすればいいか、悩んでいたら……美少年が消えた。軽やかに駆けて、通りの奥に行ってしまった。


 私は思った。「……言葉って大切だね。少しでも話せたら、状況は変わるのに……ただ、待つことしかできない……。」




 しばらくの間、一人で待っていた。


 なにも分からない所に、たった一人。怖くなって、心臓の鼓動が速くなる。落ち着こうとして……自然とため息がでた。



『嬢ちゃん、大丈夫か?』


「!?……。」



 いきなり、声をかけられた。今の日本語?……意味が分かって、逆に怖い。男の声だったし……恐る恐る確認してみる。


 鎧を着たゴリラがいた。黒髪で短髪。全身筋肉。身長は、180以上かも……真っ黒の髭に……髭? もしかして、髭の隊長さん?……その可能性はある、日本語を話せるみたいだし……でも、話しかけるのは怖い。しばらく黙っておこう。



『……嬢ちゃん、ずっとここにいるつもりか?

 そのアクセサリ―、坊主からもらったんだろ?』



 髭の隊長が、大きな指で指さした。長めの茶色のコートの中に隠していた、学生カバンに……先輩からもらったお守りをつけている。



 クリオネのアクセサリー。


 クリオネ。寒い海に生息している、ふわふわと浮かんでいる、あれ……流氷の妖精って呼ばれている。


 このアクセサリーはお守りで、物語の中に入る時に必要になるもの。これがあると、物語の中に入れる確率がかなり上がる。私の場合、これがないと……これをつけずに、物語の中に入れたことがない。


 尊敬する先輩からもらった、とても大切なもの。



 このゴリラ、目が良い。隠していたのに……なんで、分かったの? あれ……飲み物? ゴリラが、ズボンのポケットから何かをだした。液体の入った瓶。喉が渇いたのかな……うっ、酒臭い。うわ、昼間からお酒飲むの?



『……馬鹿ですか? 馬鹿でしたね。』


「えっ……。」


 ゴリラが倒れた。柔らかい金色の髪。髪は長くて、腰ぐらいまである。金色の髪の女性は、白い光を纏っている様な気がした。綺麗……すごく美人。ゴリラの後ろにいたのかな……全然気づかなかった。鎧を着た美しい女性は、微笑んで、私に声をかけてくれた。


『大丈夫?……。 

 この馬鹿に、なにもされてない?』


「だ、大丈夫です。

 なにもされてません。」



『私は、ファンタジア騎士団、

 副団長のエリアルです。』


「わ、私は、日本の東京に住んでいます。

 愛凛あいりです。


 今日はよろしくお願いします。」



『アイリちゃんね、貴方の先輩……。

 クリオネの使者から、話を聞いています。


 彼も、ここに来るそうよ。

 彼が来るまで……お菓子でも食べましょう。



 最近、美味しいお菓子のある、

 カフェがオープンしたの。


 あっ、この馬鹿は気にしないで……。

 

 昼間から子供の前で、

 酒を飲もうとする馬鹿だから……。


 アイリちゃん、見ては駄目よ。』



「…………………。」


 髭の隊長、ゴリラさんは気絶していて……起きそうにない。エリアルさん、鎧を着ているから、もの凄く筋肉とかついていると思った。全然普通。おしゃれ着を着たら……騎士団の副隊長には見えない。



 エリアルさん、凄い。あのゴリラを気絶させるなんて……やっぱり、この世界は素晴らしい。誰にでも大きな可能性がある。筋力がなくても、体格が小さくても……エリアルさんの様に、上にあがることができる。



 でも、きっと辛いことも多い。私は、なにも分かっていない。だから……知りたい。この世界のこと。異世界の国ファンタジア。


 その時、私はふと思い出した。「……ファンタジア? 西洋風の国……騎士団……髭の隊長に、綺麗なエリアルさん……あれ? どこかで会ったことがある……いつ? いつだろう……昔に……。」



『アイリちゃん、本当に大丈夫?』


「あ、はい。エリアルさん、

 私は大丈夫です。」




 モーニングカフェ。エリアルさんは鎧を脱いで……普段着に。エリアルさんが、何かを呟くと鎧が消えた。私、凄く驚いて……エリアルさんに、いっぱい質問した。



 エリアルさんは優しい。全て答えてくれる。髭の隊長を気絶させた、雷撃魔法。鎧や剣なども収納できる空間魔法。魔法……凄い、凄い! 私も使ってみたい。


 私は木の椅子に座って、色々と話をした……本当に楽しい時間。エリアルさんも、私のことを聞いてくれたので……地球のこと、日本の首都のこと。私の話に興味をもってくれた……私たちはずっと話をしていた。



 日本語を話せるのは、クリオネの使者……先輩から教わったらしい。先輩、まだ17歳なのに……異世界からの使者に。


 

 私もできるかな? 私は、15だから……まだ、2年もある。2年間、ファンタジアに訪れて、魔法を習得できれば……私は、もっと上へいける。


 先輩の様に……エリアルさんの様になりたい。あっ!……先輩だ。髭の隊長、ゴリラさんと一緒に歩いている。



 私はエリアルさんに声をかけてから、走り出した。


 尊敬する先輩のもとへ……。



 エリアルさんが何かを見つけた。私が座っていた木の椅子に……古びた紙がおちていた。エリアルさんは、その紙を見て……とても驚いた。だって、その古びた紙には、こう書かれていたから……。






《カタリ……あの子です。間違いありません!》


《……バーグさん、本当にあの子?

 前みたいに―》



《カタリ君! 絶対にあの子です!

 あの子が、私の作者様です……。》



《……5年も前だから、覚えているかな。》


《カタリ君、どうして……。

 そんなことを言うんですか?》



 青い瞳に、茶色の髪の美少年はまずいと思った。自分のナビゲーター。とっても可愛いのに……怒ると、とっても怖い。



 僕のナビゲーター、リンドバーグ。通称バーグさん。


 彼女はAI……詳しくは分からないけど、物語の外から僕に声をかけてくれる。サポートや応援・支援が得意で……方向音痴の僕にとって、的確に道を示してくれるバーグさんは、とても頼りになる存在。ただ、怒ると……とっても怖いのだ。



《バーグさん、ごめんなさい。

 僕、あの子に話しかけてみるよ。》



《………………。

 どうして、あんなことを言ったのか……。

 

 あとで、理由を聞きますからね?》



 バーグさん、それが怖いんです。いったいどれ程の物語の書き手を……作者が泣かされたのかな。うん、このことを考えるのはやめよう……自分の命が危ない。



 僕は、カタリィ・ノヴェル。皆……僕のことをカタリって呼ぶ。


 謎のトリに、世界中の物語を救うという使命……「詠み人」に選ばれた。僕の仕事は、謎のトリから授かった能力「詠目ヨメ」で、人々の心の中に封印されている物語を見通し……一篇の小説にして、その物語を必要としている人のもとに届ける。



 今回は簡単。封印されている人、必要としている人が……同じ人だから。異世界人の愛凛あいり。僕は、長めの茶色のコートを着ている、黒髪の少女に話しかけた。


《やあ、君が愛凛あいりさん? 

 僕の友達が、どうしても君に伝えたいことがあるって……。》



《君の物語は、まだ終わっていない。

 こうして……こんなにも生き生きしている。


 この世界は、君を待っているよ。

 もう一度だけ、書き手に戻って欲しい。


 この物語の為に……。》


 

 僕は、黒髪の少女に古びた紙を手渡した。古びた紙には、文字が書いてある。この物語のタイトルと、魔法騎士エリアルの物語が……。



《ファンタジアの魔法騎士……。

 作者、愛凛あいり。》




 僕の仕事は終わった。さあ、次の仕事だ……物語の外から、AIのバーグさんの声が聞こえてきた。バーグさんの声を聞いて、僕は思った。《……昔の愛凛あいりさん、きっと怖い思いをしたんだね……その気持ち、よく分かるよ……頑張れ、愛凛さん!》




愛凛あいりさん、もう酷いこと言いません。

 だから、もう一度だけ……この物語を書いて下さい~!》

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