遥か未来へ想いを馳せて

もえすとろ

新たな旅の始まり

2xxx年〇月✕日

これで今日二度目の追記だ

次第に文字を書き間違える事が増えてきた

もうダメかもしれない

今日も誰とも会う事はなかったし

もう二度と会えないのかもしれない


いや、弱気になってはダメだ

探さないと

まだ、残っているかもしれないんだ


生存者や非感染者が










拾った手記にはそれ以降まともな文字が書かれた痕跡はなかった

文字と言えない記号や棒で書かれたものが羅列されていて、もう誰にも読む事は叶わないだろう


この手記の持ち主はきっと感染してしまったんだ

KKNケーケーエヌウイルスに……

このウイルスに感染した者は文字が書けなくなる

とても恐ろしいウイルスだ

何とかして治療薬を造れればよかったのだが

しかしKKNウイルスが見つかった時、既に人類は手遅れだった……


既に世界中にもう一つのウイルスが蔓延していたからだ

それが、YMNワイエムエヌウイルス

YMNは文字を読めなくするウイルスだと言われている


この二つのウイルスによって文化も文明もあっけなく崩壊した

文字でのやり取りを失い、声やジェスチャーでしか物事を伝達できない現状

何かを残したり発展させたりする事はほぼ出来なくなった

人類は言語の壁を残し、一気に滅びへ向かっていった



もう、この世界には

文字を書ける人も読める人もそんなに残っていない

この滅びゆく世界で、小説家は酔狂か狂人しかいない

文字が書けなければ文章は書けない

読者がいなければ存在意義がない

世界から物書きが姿を消すのはそう遅くはなかった





しかし、たった一人だけ難を逃れた男がいた

幸運にも彼はどちらのウイルスにも感染する事なかった

今の世界で唯一の小説家

それが、この俺


カクヨム・ノヴェルである


ノヴェル家の末裔にして詠目ヨメの能力を受け継ぎし正当な後継者だ

我が家が代々受け継いできたこの不思議な能力のおかげで

俺はウイルスに感染しないみたいだ

勿論元々の能力である他者の心に封印された物語を見通し、一篇の小説にすることもできる

しかし、今は小説にした所で読める人がほぼいない

だが、完全にいないわけではない

だから俺は小説家として読者に小説を届けるために旅をすることにした

この旅で出会った読者はまだ10人にも満たない

しかし、彼らは死ぬ前にもう一度小説が読めた事をとても感謝してくれた

もっと沢山に人に小説を届けたい……


立ち寄った集落ではできるだけ多くの人に心に封印された物語を見せてもらう

そして、また他の集落へ読者を探しに旅立つ

きっとご先祖様はもっと沢山の人々の物語を見ていたはずだ

そして、もっともっと沢山の人々を救ったんだろう


正直言って羨ましい……


そういえば

家を出る事にしたのは、実家に所蔵してある物語を片っ端から読破した後だったな

きっと全て誰かの心に封印されていた物語なんだ

ご先祖様が集めたように俺もいつか棚いっぱい、いや部屋いっぱいになるくらい物語を集めたい

そう思って、俺は旅に出たんだ


旅を始めたばかりの頃は不安でいっぱいだった

もし途中でウイルスに感染してしまったら

もし能力が使えなくなってしまったら

そんな考えが寝る前や何も無い荒地を歩いている時にふと浮かぶ

そんな時、俺は決まってお守りを握りしめる

このお守りにはご先祖様をサポートしてたAIが宿っているらしい

こんな情けない俺だけど、きっと守ってくれると信じている



俺「もう少し行けば、次の集落が見えるはずなんだけど……」


歩けども歩けども一向に集落は見えてこない


俺「おかしいな……もう見えてもいい頃なんだけど」


もしかしてこの前の集落で聞いた話が間違っていたのかな

行く当てもなく彷徨うのは得策ではないし

どうしようかな

そろそろ日も沈む

しょうがない

今日はここで野宿かな


もう野営の準備も手慣れたものだ

最初はテントを建てるのに3時間もかかって、飯の用意どころじゃなくなったんだっけな

あの夜は空腹と不甲斐なさで泣いたっけな

なんて考えながらもテキパキとテントを建てて

寝床の完成っと!

後は夕飯だな

前の集落で分けてもらった保存食を更に分割して、何日持つかの確認も同時にしておく

よし、この調子で行けば後3日は問題ないな

ハッキリ言って味はマズイ

でも、食べ物を食べれるってだけで今回はツイている

前の前の集落じゃ分けるほどの食料も残ってなかった

飲み水だけ少し分けて貰って、それで数日過ごしたのは今思うと無茶したもんだ


飯を食べ終えて、前の集落で見せてもらった物語をまとめる作業に入る

コレはもう日課みたいなものだ

集落の規模にもよるけど、そこそこ大きな集落だと全員分まとめるのに7日はかかる

前の集落は中規模くらいだったから、全員分まとめるのに3~4日かかる計算だ


黙々と作業をしてると辺りが暗くなってきた

燃料代の節約の為に今日はこの辺で切り上げておこう

続きは明日だな


さて、寝るか



ほ~~~ほ~~~~


どこかで変な梟が鳴いている声がした

梟って食えるかな……

上手く捕獲できれば次の集落で物物交換に使えるかも


よしっ!そうと決まれば捕獲に行くか!

大丈夫、所詮はトリだ

簡単に捕まえられる!


テントから出て鳴き声の方へ向かう


そこにはそこそこ大きな丸々肥えた鳥が木に留まっていた

どうやらただの梟ではないみたいだ

これは食えるのか?

まぁ、いい

食えなかったとしても、何かしらの役には立つだろう

交渉において切り札になりえるはずだ


静かに

目立たず






そいやっ!!

鳥「グエーーーーー⁉」

俺「よっしゃ!捕獲成功!」

バサバサと鳥が暴れる

出来れば鮮度のためにも生きたまま連れて行きたいんだが

俺「くそ、大人しくしろって!」

鳥「苦しいって!離せ!馬鹿者!」

俺「うるせぇ!黙って捕まれ!」

ん……?こいつ今喋らなかったか?鳴き声か?

鳥「戯け!この我を捕獲してどうするつもりだ!」

しゃ、喋った⁉

俺「な、ななな、何で鳥が喋ってんだ⁉」

鳥「ん?お前さん、我の言葉が分かるのか⁉」

俺「だからなんで鳥が話せるんだよ⁉気持ちわりぃな!」

鳥「名を名乗れ、人間」

俺「あ?俺か?俺はカクヨム・ノヴェルだけど」

鳥「ノヴェル⁉まさか小僧、カタリィ・ノヴェルの子孫か⁉」

俺「あ、ああ、そうだけど……お前何者なんだよ。ただの鳥じゃねーな?」

鳥「我はトリ。かつてカタリィ・ノヴェルに詠目の力を授け使命を与えた者だ」

俺「はぁ?そんな長生きな鳥がいてたまるか!」

鳥「事実である!」

俺「なら証拠はあんのか?」

鳥「質問してみよ。カタリと共に旅をした我に答えられぬ事はない」

俺「なら、ご先祖様の座右の銘は?」

鳥「簡単すぎる。読めばわかるさ!だ」

俺「せ、正解」

鳥「他にも共に旅したAIについても我は知っているぞ?」

俺「は?嘘だろ!そんなの」

鳥「あやつは作家サポートAIのリンドバーグ。バーグさんと呼ばれていたな」

俺「それは、門外不出の古文書に書かれてた内容だぞ」

鳥「信じる気になったか?小僧」

俺「俺は小僧じゃねぇ!カクヨムだ」

鳥「ではカクヨムよ。これから我と共に旅に行こうぞ」

俺「は?どこに?」

鳥「世界中だ。世界中の人々に物語を届けるのだ」

俺「はぁ、所詮は鳥か」

鳥「なんだと?」

俺「今、世界で小説が読める人間は極僅かしかいないんだよ」

鳥「知っておる。しかし、詠目の力があればそれも解決する」

俺「……どういう事だ?」

鳥「詠目は世界の人々を救う力があるのだ」

俺「ほんとに?ほんとに救えるのか?」

鳥「左様、お主の頑張り次第で世界に再び文字を溢れさせられるのだ」

俺「なら、俺はやるよ。頑張って世界を救うよ」

鳥「よし、ならば先ずはバーグのやつを起こさないとな」

俺「でも、コレ壊れて」

鳥「ほう、持ち歩いているのか、感心感心。貸してみよ」

鳥にお守りを渡すと器用に嘴でコツコツとつっつく

すると

AI「うーーーーーーーーん。良く寝たぁ」

お、お守りから声がでた⁉

鳥「起きたか、リンドバーグよ」

AI「あ、おっはよートリさん」

鳥「そなたの力、また借りるぞ」

AI「何々?作家さん鍛えればいいの?」

鳥「ああ、こやつを一端の作家に仕上げてもらう」

AI「あ、初めまして~!作家サポートAIのリンドバーグで~す。バーグさんって呼んでね!因みに座右の銘はいつも笑顔!」

俺「は、初めまして!俺はカクヨム・ノヴェル。えと座右の銘はまだないです」

AI「あれ?もしかしてカタリの子供?」

俺「いえ、子孫です」

AI「あ~、そーなんだ。よろしくねー」

鳥「自己紹介は終わったな?では出発といこう」

俺「でも、まだ夜ですよ?」

鳥「ふん、我が付いている。案ずるな」

自信満々の鳥とゆる~い感じのAIと共に俺は次の集落へ向かう事になった


俺「あ、バーグさん」

AI「何?」

俺「ご先祖様……カタリィ・ノヴェル様ってどんな人でした?」

AI「う~ん……シチュエーションラブコメとかが好きな人、かな?」

俺「へ、へぇ~」

やばい、知らない…何それ??

俺「あ、えっと他には何か知ってますか?」

AI「カタリについて?えーっとね、紙とペンがあれば小説書いてたよ」

俺「そ、そうなんですか⁉」

AI「超下手だったけどね~。あと自分ルールとかで人生縛りプレイしてた」

人生縛りプレイって何⁉

AI「他にはね~、締め切りの最後の3分間でギリギリに投稿したり、昼寝して目が覚めた瞬間に『最高の目覚め』って叫んだりして面白かったよ」

俺「お、面白いですねー……」

鳥「そういえば、カタリと旅を始めて丁度3年目に賞を取ったとかでパーティーをしたな」

AI「あれは感動したね。あんな下手だったのに賞を取るなんてね!いっぱいおめでとうって言ってあげたよ」

鳥「まぁ、素直じゃないから三周年記念とか言ってたがな」

AI「そうそう!でも本心じゃ、めっちゃ喜んでたよね~」

鳥「そうだな」

俺「文献にも古文書にも残ってない話ばっかりだ」

鳥「それはそうだろう。カタリは自身の事をあまり残さない性格をしていたからな」

俺「なんでですか?」

鳥「単純に恥ずかしかったんだろうな。自身の事が語り継がれるのが」



俺の知らない初代様のことを色々聞かせてくれる

きっとこの二人は初代様を……

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遥か未来へ想いを馳せて もえすとろ @moestro

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