心が欲しい人の話

@franche

終わりの始まり

今かも知れないし昔かも知れないし、もしかしたら未来かも知れないあるところに1人の人間がいました。


その人間はある日、ふとしたきっかけで自分には心がないことに気づきます。


朝ごはんを食べてるときだったか、出掛けようと準備してたときだったか。

ともあれ、それは本当に、息をするくらいに、鳥が空を舞うように、つぼみが花開くかのように自然に気づいてしまったのです。


その人間は、なぜ自分には心がないのかとても気になりました。


道行く人に尋ねます。あなたの心はどこにありますか?


道行く人は答えます。心は胸にあるんだよ。ドキドキすると熱くなるんだ。


人間はなるほど、と思い道行く人の胸をぱっくり開いてしまいました。

けれども、そこに合ったのはどくどく脈打つ心臓とたくさんの真っ赤な血液だけでした。


それを見た人間は心は胸にはないんだな、と思いました。


心がないので、苦しんで死んでいった道行く人を見てもなにも思いませんでした。


次に人間は、空にぷかぷか浮いてる人に尋ねます。あなたの心はどこにありますか?


浮いてる人は答えます。心は頭にあるんだよ。悲しくなるとずーんと重たくなるんだ。


人間はなるほど、と思い浮いてる人の頭をぱかんと開いてしまいました。

けれども、そこに合ったのはぴくぴく蠢く脳みそとたくさんの真っ赤な血液だけでした。


それを見た人間は頭には心はないんだな、と思いました。


心がないので、苦しんで死んでいった浮いてる人を見てもなにも思いませんでした。


次に人間は水の底に沈む人に尋ねます。あなたの心はどこにありますか?


沈む人は答えます。心は目には見えないが、確かにここにあるんだよ。見えないけれどもあるんだよ。


人間はなるほど、と思い見えないならば探してもしょうがない、と家に帰っていきました。


心がないので、それ以上追及することも、どうしても心が欲しいとも思えなかったのです。


それから人間はずっとずーっと心がないまま、なにも感じず、なにも残さないまま生きて死んでいきました。

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