第八話 サラマンとラスエルの日常 その7 別編

「む~ん」

ラスエルは緑の野菜と睨めっこしていた。

「好き嫌いはダメだよ。ちゃんと食べなさい」

「ピーマンは嫌いなのだ!」

「ミンチ肉と炒めたから食べやすくなってない?」

「それでも、ピーマンは嫌いなのだ!」

仕方ない。あの手を使うか。山本は四国の実家に電話した。

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山本の実家には畑がある。5月にはキュウリやナス、ピーマンを作付けするのだ。

「おじ~ちゃん!おば~ちゃん!」

車から飛び降りたラスエルが山本の父母に駆け寄る。

「よう来たね~」

「ゆっくりしてお行き~」

頭をなでなでしてもらってるラスエルを見ながら、山本は”やはり”と考えていた。

電話した時もそうだったのだ。会ったこともないラスエルのことを両親は知っている。山本がラスエルの父となった経緯やらなんやら普通は疑問に思うところだろうに、一切が自然に対応される。これが使徒の力による印象操作なのだろうか。

「じゃあ、ラスエルちゃんお着替えしましょうね」

「ピーマンを植えようね」

「ピ、ピーマン!?」

うげーっという顔でラスエルは山本の顔を振り返って見た。

「大丈夫、大丈夫。楽しいから!」

そうして、家族でピーマンの苗の植え付けが始まった。

最初は渋い顔をしていたラスエルだったが、畑の土をいじり、ミミズを見つけては喜び、山本の母と一緒にスコップ片手にピーマンを植え始めた。

「ピーマンが大きくなるようにおまじないをかけよっか」

母がラスエルにジョウロを持たせて

「ピーマン大きくなぁれ~」

と、ラスエルの手を導きながら苗に水をやる。

それにラスエルは敏感に反応して

「ピ、ピ、ピーマン!!ピピピのピーーーーー☆」

きゃあきゃあ喜びながらピーマンに水をやっていた。

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そして7月の中旬、再び山本とラスエルは実家に戻ってきた。

「おと~さん、ピーマンピー君は大きくなってるかなぁ?」

「あぁ!きっとピー君は大きくなってるぞお!」

父母と一緒に早速収穫に取り掛かる。

「ピー君、大きくなってるうううう!」

ラスエルは歓声を上げた。

母と一緒にパチンパチンとザルにピーマンを収穫していく。

山本のところにラスエルは駆け寄ってきた。

「おとうさん!ほら!立派なピー君!」

「おお!良かったねぇ~!」

「ほら!ピー君!」

「うんうん!うごっ!」

山本の顔にピーマンがぐりぐりと押し付けられる。

「分かった!分かったから!」

山本はピーマンを受け取ると

「有機栽培だからね。ほら、生でも大丈夫」

ピーマンを齧ってみせた。

「うあああ!ピー君が食べられたーーー!!」

しばし呆然としたラスエルだったが

「ラスエルも食べるー!」

がぶり!

またしばし呆けるラスエル。

「りんごと同じ味がするー!」

そうなのだ。新鮮なピーマンはりんごの様な爽やかさがあるのだ。ちなみにトウモロコシも収穫したてはリンゴのような味がする。

本当は水で洗ってから食べるのが良い。

「ようしよし、家でピー君を料理してやろう」

山本が作ったのはピーマンを縦に切って、とろけるチーズを掛けてチンしたシンプルなものだった。

「「「「いただきます!」」」」

ラスエルはピーマンを口に運ぶ。

それを見守っていた山本と両親だったが

ラスエルは目を輝かせて叫んだ。

「おいしい!!!!!!」

これは、使徒ラスエルが、受肉してから初めて、単純に”味がする”という以外の感想をもった瞬間だった。

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「今日はよかったねぇ。ラスエル」

「うん!おとうさん!おとうさん!あのね!」

ラスエルは腕をうんと大きく回しながら

「ラスエル、ピーマン大好き!!」


つづく


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