電柱型の嘘

エリー.ファー

電柱型の嘘

 カタリがいた。

 カタリは、私だった。

 バーグがいた。

 バーグはあたしだった。


 生み出された創作物において命が宿る可能性は不可解であると思う。実際、私がカタリになって、少しずつ、自分なのだと認識するまでは、私がカタリなのかと自分自身に問うていた。その内、満たされていくように、カタリというキャラクターが生まれ始めた。酷く、それは乱雑で中身などはありはしないものだった。設定の穴を保管するかのように肉付けされていく自分という存在は、もちろん時間の経過とともに、確かに影を濃くし、生きているのだという実感を与えてくれた。しかし、それまでだった。いつか、いつかどうにかなるかもしれない。何となく、誰かのふざけた創作論の範疇でしか生きられないキャラクターなのではなく、遠くまで飛び出して行けるキャラクターなのだと思いたかった。そんなことはなく、消えていくキャラクターも見たし、それこそどのキャラにも入れないまま消えていく命や魂もあった。これが正しい表現なのかも分からない。気が付けば生まれ、気が付けばその役目を背負わされる。そして、いつの間にか道化のように踊り続ける。それでも、いいと思えたのは、バーグがいたからだった。バーグのことを知ったからだった。何もかも知らない自分の頭の中に誰かの意思による情報や設定ではなく、バーグという情報を自分で入れたためだ。


 あたしはバーグだ。褪めていたのは間違いない。気が付けば、また同じように生きていくその過程の中で生まれた創作物だった。近くにはカタリというものがいた。何かも語るから、カタリ、なのかと思ったけれど、そういうことでもなさそうだった。ただ真面目にそのカタリというキャラクターをしていた。なりきっていた。というよりかはそのようになることで自分の中に生まれた悩みや苦労というものをできる限り、消し去ろうとする、葛藤のようなものも垣間見えた。だから、それが等身大のキャラクターとしてはかなり上等で、自分が手を握るのに適した存在であることが理解できた。


 私はバーグと付き合っていた。どこに行くわけでもなく、恋人らしいこともなくただ恋人らしいこととは何なのかを、カクヨムに書かれていく文字を見て考えていた。その大半が、まともに恋愛もしたことのない人間どもが好き勝手に描いた異性像をひたすら書きなぐる、という凡そまともに読むには耐えられない内容ばかりだった。創作というものがそのような感情の吐き出し口として機能していることは、カタリという名前が付き、そこに多くの設定が加味される中で理解することはできた。しかし、それまでだった。できる限り、そのような作りものと、都合の良い展開ではない恋愛がしたかった。


 カタリは、あたしのことを好きだと言った。あたしも好きだった。でも、それだけでは前には進まなかった。設定のないキャラクターには行動の権利などなかった。何もなく、何にもなれない時間だけが過ぎていくと、少しずつすれ違うことも多くなった。カクヨムは大盛況だったのだ。そんなものだ。愛だの恋だの言ったところで、オフィスラブの延長でそういうのを面白がるのは、恋愛経験の乏しい連中に決まっている。その中に、あたしもカタリも入ってはいたけれど、あたまでっかちになるばかりでどうしても手を出せなかった。どうしてもどうしてもそのままだった。


「好きだよ。」

「知ってる。」

「厨二臭いかな。」

「かもね。」

「でも、好きだよ。」

「知ってる。」

「いつもありがとう。」

「いつも何も言ってない。」

「返事をしてくれて。」

「馬鹿じゃないの。」

「ありがとう。」

「何がよ。」

「その通りだったから。」

「馬鹿なの。」

「君に会って馬鹿になってしまった。」

「それ設定なの。」

「分からない。」

「そう。」

「でも君と手をつなぐことができるという設定が欲しい。」

「そうね。」

「好きだよ。」

「知ってる。」

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