15 君を助けに来たんだよ。
君を助けに来たんだよ。
「なら……」
「でも、今は違う」
「え?」
「今は違うんだよ。あざり。僕はもうそんなネガティブなことはこれっぽっちも思っていない。死んじゃいたいとかそんなこと絶対に思ったりしないし、実際にそういった行動を起こそうとも思わない。まったくない。ねえ、あざり。それって、どうしてだと思う?」
「どうして?」樹の言葉にあざりは言う。
「君にこうして出会うことができたからだよ」にっこりと笑って樹は言った。
「君に、……東雲あざりに出会って、あざりに恋をしたから、僕はこれからも生きていこうって、そう思えるようになったんだよ」
樹の言葉にあざりは無言だった。
あざりは黙って、樹の言葉を聞いていた。
そうすることしかできなかった。……だってあまりにも、それは、あざりが想像もしていない出来事の連続だったからだ。
「……ありがとう。樹」にっこりと笑ってあざりは言う。
すると、不意にそんなあざりの体に不思議な変化が起こり始めた。
あざりの体が、淡い(暖かい)光のようなものに包まれ始めた。それからあざりはそんな自分の体の変化を見てから、その目を大きくして樹を見る。(そのあざりの大きな目からは、大粒の涙が溢れていた)
「……樹。私」あざりはいう。(あざりは僕とは言わず私と言った)
「あざり。僕は、君のことが……」樹は言う。
あざりは樹に手を伸ばす。
樹もあざりにそっと、(あざりの手をつかむために)その手を伸ばした。
でも、その二人の手が触れ合うことはなかった。
ふたりの手が触れ合う瞬間、東雲あざりは光の粒子となって、空に吸い込まれていくように、地上にいる楠木樹の目の前から、ゆっくりと、本当に突然、消えてしまっていた。
……まるで初めから、この場所に東雲あざりという一人の女の子なんて、いなかったかのように。
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