12 あざりと黒猫
あざりと黒猫
その日は朝からずっと雨が降っていた。
あざりはいつの間にか東雲神社に住み着いてしまった迷子の黒猫と一緒に、神社の階段のところに座って、いつものようにぼんやりと雨降りの空を眺めていた。
「……はぁー。素直じゃないな。僕は」あざりは両手の上に自分の顔を乗せながら、そう言った。
「にゃー」
すると黒猫がやってきて、あざりを励ますように、そんな鳴き声を出したあとで、あざりの手にその頬を寄せた。
「ふふ。お前は可愛いやつだな」
あざりはそう言って、その黒猫を抱きかかえるようにして、自分のお腹の前辺りにその黒猫を抱き寄せた。(黒猫は抵抗しなかった)
「にゃー」
あざりになにかを促すようにして、黒猫がもう一度鳴いた。
「うん? お前、私に『樹に私の本心を話せって』そう言っているの?」あざりが言う。すると黒猫は小さく頷いた。(……あるいはあざりにはそう見えただけかもしれない)
「うん。まあ、そうしたいんだけどさ、……なかなかそういうわけにもいかないんだ。こっちにもね、いろいろと事情っていうものがあるんだよ。大変なんだ。人間はね。幽霊になっても同じさ。猫とは違うんだよ。君のように自由には生きられないんんだ。一度死んでしまった僕としてもね」と幽霊のあざりは言った。
「にゃー」
黒猫は鳴く。
「うん? なになに? その理由を知りたいって?」
あざりはそう言ってから、一応、神社の周囲の状況を確かめてみる。……大丈夫。人の気配はない。(……と思う)
「わかった。じゃあ、樹には内緒だよ。君だけに教えてあげるね。僕が樹に自分の本心を隠している理由」
そう言ってあざりは悲しそうな顔で小さく笑うと、その『本音を言えない理由』を迷子の黒猫に向かって話し始めた。
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