9 奈緒ちゃん。笑って。
奈緒ちゃん。笑って。
「あいつ。あったら絶対に殴る」
電車の中でそんな不吉なことをぶっきらぼうな顔をして八坂奈緒が言った。
「まあ、まあ」
そんな親友のことを琴音は苦笑いをしながらなだめていた。
琴音の横に座っている樹はそんな二人の(樹、琴音、奈緒の順で電車の椅子に座っていた)仲の良い様子をじっと観察していた。
二宮琴音はおとなしい顔をした(性格もどこかおっとりしている)物静かな女の子なのだけど、そんな琴音の親友の奈緒は男勝りの強気な性格をした女の子だった。
二人の性格は反対で相性がいいようには樹には最初そうは思えなかったけど、実際の二人はすごく仲の良い(まるで姉妹のような)親友同士だった。
二宮琴音は肩口までのボブカットの髪型をしていて、頭にいつも白いリボンをつけていた。服装は青色のワンピース。麦で編んだ大きなバックを手に持って、足元は白のサンダルだった。
八坂奈緒は腰まである黒髪のロングの髪型に野球帽をかぶり、服はパーカーにデニムのミニスカート。背中に赤色のリュック。(そのリュックは今は奈緒の足元にあった)足元はスニーカーという格好だった。
ちなみに樹は格子柄のシャツにデニムのズボン。スニーカー。青色の肩掛けカバンという、樹のいつもの格好そのままだった。(それでも、あざりの忠告通りに一応、髪型を含めて、身なりには気をつけてきた)
琴音はすごく可愛い子で人気もあったけど、八坂奈緒はその上を行く(それは自他共に誰もが認めることだった)本当に目立つ美人の子だった。
奈緒がそこにいるだけで、奈緒だけが、まるでスポットライトを浴びているかのように、彼女だけがその周囲から(人だけではなくて風景からも)切り取ったように目立った。
そんな自分の才能(そう、それはきっと才能と呼んでいいものだと思う)を八坂奈緒は嫌っていた。綺麗になりたいとはもちろん思っていたけれど、綺麗過ぎるのはいやだった。
奈緒の勝気で強気な性格も、もしかしたらそれは奈緒本来のものではなくて、そういった才能による『ある種の嫉妬や周囲からの攻撃』から、自分の身を守るために身につけた後天的な盾(シールド)のようなものかもしれない、と樹は思った。
「……なに? 樹。さっきからなにじろじろ私のこと見てんの?」
そういって奈緒に睨みつけられた。
樹が言い訳を考えていると、琴音が「それは奈緒が可愛いからだよ。だから見とれちゃってたんだよ。楠木くんは。ね、楠木くん」と助け舟になっているのかどうか、わからない微妙なフォローをしてくれた。(琴音に悪気はない。琴音にはそういったどこか天然な性格をしているところがあった。そのせいで二人は親友同士になれたのかもしれない)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます