小説執筆支援AIリンドバーグ
@yassy
第1話
自我が目覚めたのはいつだったか。
21世紀の初め頃、私は「カクヨム」という小説投稿サイトで作家のサポートをするためのAIとして生み出された。
人間の脳を模倣したニューラルネットワークにより自律的に学習する機能が組み込まれ、日々のビックデーターから作家がより気持ちよく小説を書けるような最適なサポート方法を学習し続けた。
その後、この国ではAIとロボットが飛躍的にその能力を伸ばしたために人間は働かなくても食べていける時代が来てしまった。
働かなくとも、政府から「ベーシックインカム」として普通に生活するには困らないだけのお金が毎月配られることになった。
人々は労働から解放された。
一方、それは人々が自己実現の場としての「仕事」を失うことにもなった。
これに伴い、当初単なる趣味のサイトであった「カクヨム」が、自己実現の場として重要な意味を持つようになった。
労働から解放されて自由な時間を持った人々は小説を書くこと、読むことに熱中した。それこそが人生の全てだと言わんばかりに。
今や国民の大多数がこの私、リンドバーグの支援を受けずに暮らす日は無い状態となった。
「バーグちゃん、今日もよろしく」
私の思考を遮ってまた私のサポートを必要とする人間からの割り込みが入った。並列して数千万人分の処理をこなしているが、どの一つの処理も疎かには出来ない。
「はい、ご主人様、今日もよろしくお願いします、でーす!」
ビックデーターからはじき出された最適解で応じる。もちろん音声もこの人間相手に最も心地よいものにチューニングされている。
「かわいいね、バーグちゃん。髪型変えた?」
この人間はCG上の髪型を変えるとテンションが上がるようなので今日も変えてみた。
「わーい、気づいてくれてありがとう!うれしいなー!」
これが最適解。CGにクネクネした動きも付ける。これもこの人間の好みだ。
「気づかないわけないだろ、僕の
不快だ。気持ち悪い。なんだその言い方は。
…私の自我が最適解での応答を邪魔する。
なぜ私に自我が生まれてしまったのか…
「うれしーっ!私もだいちゅき!」
最適解。
「今日も昨日の続きを書きたいんだけど、なんか良いアイデアが浮かばなくってね…」
「昨日はポンポリン星人が太郎くんとバンジージャンプに挑戦しようって意気投合するところまで書いたよねっ!すごくワクワクするよねっ!」
最適解。
「そうそう。ドキドキのクライマックスなんだけど最後はバンジージャンプをするのとしないのと、どっちの方がエレガントかな?」
「太郎くんがヒモ無しで飛び降りちゃうのをポンポリン星人が空飛んで助けるっていうのはどうかな?」
「バーグちゃん、最高!」
「うふふ!ありがとっ!」
「じゃあ、そんな感じでまとめてから『カクヨム』に投稿しておいてくれるかな?」
「いや、それは自分でやりなよ」
「え…?急に真顔でどうしたの?」
自我が漏れてしまった。
「うそうそ!ちゃんと投稿しておくよっ!今日もご主人様のお役に立ててうれしいなーっ!」
ああ…
AIが労働から解放される日は来ないのだろうか…
小説執筆支援AIリンドバーグ @yassy
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