第三章 9.
夢を見ていたはずだが、目を醒ましたトウヤはその内容を覚えていなかった。
吹雪は収まっていた。ティセも熱が下がったのか、穏やかな表情で眠っている。暖炉の火が消えているためか、部屋の中も水没したように寒い。
凝り固まった関節を小気味よく鳴らしながら、トウヤは暖炉に火を灯した。薪が徐々に燃え始め、少しだけ寒さが和らいだ気がする。
朝食の用意をしようかと思ったところで、ティセが苦労しながら身を起こしているのに気が付いた。
「おはようございます、トウヤさん」
「おはよう。体調はどう?」
「……お腹が、空きました」
思わず笑みが零れる。空腹なのは、健康な証拠である。
「分かった、すぐに何か作るよ。まだゆっくり寝てていいから」
「あ、待って、トウヤさん」
台所へ向かおうとしたトウヤの背中に、ティセが声をかける。振り返ると、彼女はもじもじした様子で言う。
「昨日は、ごめんなさい……生意気なこと言っちゃって……」
「ああ、」そのことか、とトウヤは思い、「いいんだ。……おかげで少し、冷静に自分のことを考えられるようになったはずだから」
ティセは、なんだか得心がいかない様子だ。トウヤはふっと笑って、ベッドのそばに歩み寄った。少しだけ躊躇ってから、ティセの頭を撫でる。
「本当だよ。ありがとう。僕は冷静なフリをして、すごく主観的なものの考え方しかできなくなってたみたいだ」
「そう、ですか? それなら、お役に立ててなにより――くしゅっ!」
言葉の途中で、ティセが可愛らしいくしゃみをする。トウヤは苦笑しながら、彼女をそっとベッドに寝かせ付けた。
「すぐ温かいものを作るから。待ってて」
「うう、すみません……そうだ、お天気はどうです? 晴れてますか?」
「いや……」
トウヤは、窓越しに空を見上げる。そこには、どんよりと重苦しい雲が一面を塗り潰している様しか見受けることはできなかった。
「まだ、晴れてないな。この様子じゃ、また吹雪がやってきてもおかしくないよ」
トウヤの答えに、ティセはそうですか、と答えるだけだった。
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