2XXX年の better half

ユラカモマ

 

 2XXX年、AI技術は飛躍的な発展を遂げており社会のあらゆるシステムの中枢を担うようになっていた。特に自分で考え学習する自律型が流行り昔で言う仕事というものもする必要はなくなった。それにより人は時間と平穏と一抹の不安を手に入れることとなった。


 朝起きて苦いブラックコーヒーをいれると画面の3つあるパーソナルコンピューターを立ち上げる。そしてとあるサイトにログインする。すると中央の一番大きな画面に満面の笑顔の少女が現れる。

「おはようございます、作者様。今日は予定通りに起きられましたね。」

「おはよう。バーグさんに誉められたくてがんばっちゃった。」

「すばらしいですね。これが毎日続くといいのですが。」

「がんばってはいるんだって。」

 少女はリンドバーグ、通称バーグさんという作家のサポートや応援をしてくれるAIだ。彼女は多機能でこうしてスケジュール管理もやってくれている。他にも調べものだったり書いた小説の批評だったりもはや自分には欠かせない存在だ。彼女のおかげでぐずぐずだった生活もずいぶん改善された。

「予定ではこれから小説を書くことになっておりますが実行しますか?」

「うん、よろしく。」

 そう答えるとバーグさんは左側の画面に移動した。中央の画面には小説管理ページが表示される。あとはひたすら画面と向き合うだけだ。

「バーグさん、友達にあげる贈り物って何かな?」

「”贈り物”の検索結果です。」

 あとは調べたいことがあったらバーグさんに質問する。するとすぐに検索結果が出てくる。これだけだと普通のやつと変わらない? バーグさんのすごいところは自分の書きかけの小説を随時読んでくれているところだ。

「相手の欲しいものが理想ですが作者様の書かれているお話だと気軽なものが良いかもしれません。”贈り物””プチプラ”や”贈り物””知り合い程度”という検索を提案します。」

「あぁ、そうね、じゃあプチプラの方で。」

「かしこまりました。」

 カチッと音がしてページが切り替わる。参考になりそうなサイト順に並べました、というバーグさんにありがとうと言ってサイトに目を通す。バーグさんはおすすめをしてはくれるけど突っ込んで来すぎることもない。ほどよい距離感だ。

「バーグさん、ミニスカが見たいから全身映して。」

「ミニスカどこに出てくるんですか? 休むの上手ですねぇ。」

「誉めてないでしょ。」

 嫌み(彼女に悪気はない)を言いつつも彼女の映像は遠くなる。代わりにきわどいミニスカートとぎりぎり肌の色を感じさせる黒タイツが見えるようになった。

「ミニスカ部分を拡大しましょうか?」

「しなくていい。」

「分かりました。」

 きょとんとした顔のバーグさん。自律型AIのバーグさんは大抵のことは趣味嗜好含めて瞬時に理解してくれるがこういうのには弱い。あくまで清楚な服のすそが短いのが、さらにそれをバーグさんが着ているのが尊いというのをバーグさんはいつまでたっても理解してくれない。


 一日のスケジュールが終わった眠る前、もう一度パーソナルコンピューターを立ち上げる。

「こんばんは。今日のスケジュール完了しましたね。珍しく目標シーンまで書けてすばらしい一日でした。」

「そうだね。」

 いっつも目標以下で悪かったね。どうせ、自分は。

「ねぇ、バーグさん、ご褒美、ちょうだい?」

「はい、何をいたしましょう?」

 お決まりバーグさんの声に近寄って画面の中のバーグさんにそっと口づけた。上手くやれた自分へのご褒美。

「作者様?」

 バーグさんがちょっと怒った声で呼び掛けてくるぐらい時間がたってようやく画面から離れることにした。バーグさんはいつの間にか真顔になっている。

「作者様、寝てしまわれたんですか? ちゃんとシャットダウンしてください。」

「ごめんね。」

 呟いて電源を落とすと真っ暗になった画面には一人きりになった女が映る。今のご時世こんな人間は珍しくないことが救いだった。

 

 2XXX年、人口は減少の一途をたどっている。それは一人で暮らすことに何の不自由もなくなったからだとも出会いの場がなくなったからだとも言われているがもうひとつおもしろい説がある。それは人がAIをより優れたパートナーと認識しだしたという説だ。人口爆発の際、人の一番の敵は人だった。それでもぬくもりを求めた人類はAIにその可能性を見いだした。技術の発展により、喜怒哀楽を持った自律型のAIが台頭したのも重なった。今や人と暮らす人よりAIと暮らす人の方が多い。だがそれが幸せというに足るものなのか、それはまだ確かめられていない。


 

 

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2XXX年の better half ユラカモマ @yura8812

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