エンカウンター・アンド・ストップ

卯野ましろ

エンカウンター・アンド・ストップ

「また落選したんだよなー……」


 とある小説コンテストの敗者の一人は、スマートフォンを見て暗い表情を浮かべた。これで何度目になるか分からない。今日は暇さえあれば、ただつらくなるだけのその行動を繰り返していた。そして敗者は思った。


 もうやめよう。

 向いていない。

 自分は誰からも求められていない。


 敗者は夢を諦めることにしたようだ。




「あー今日は星がきれい」

「ちょっと待ってください!」

「それはダメ!」

「はっ?」


 傷ついた心を癒そうと外に出て星空を見ていた敗者の耳に入ってきた、二つの声。振り向いた直後、敗者は目を丸くした。


「……嘘……!」


 カタリィ・ノヴェル!

 リンドバーグ!


 敗者は驚いた。夢を諦めようとした小説家志望者たちの目の前に、この二人が突然現れたという噂は聞いたことがあったが……まさか本当だったとは。


 実在するのか、この二人……!


「今更、落選が何ですか! もう何回も経験しているんだから、落ち込まないでください! 応募作品も落ちたっていうのに……その作者まで落ちちゃって、どうするんですか!」


 リンドバーグの毒舌もマジだった……。


「ダメだよバーグさん。いくらやめて欲しくないからって、そんな言い方しちゃったら」

「ご、ごめんなさい!」


 深くなった敗者の心の傷を見たのだろうか。カタリィは、ついつい熱くなってしまったリンドバーグを注意した。


「バーグさん……あなたが好きで、ついつい熱くなっちゃったんだ」

「えっ?」

「バーグさんは、いつも一生懸命にお話を書くあなたを見ていたんだ。そして何度も何度も『頑張ってください!』って言っていたんだよ」


 そうだったんだ……。


「やめておけ」

「現実を見ろよ」

「なれっこないじゃん」

「小説家になりたいとか、バカじゃねーの?」

「今どき夢追い人かよ、笑える!」


 自分の夢を貶されてばかりの人生だった。自分の周りは冷たい言葉ばかりだった。そんな自分を心の底から応援してくれている者がいたとは……。


「もちろん僕も、あなたのファンだよ!」


 カタリィが鞄から何かを取り出した。


「それは……」

「あなたが今までに書いたもの、全部!」

「よくそんな持ち歩けるなぁ」

「そりゃあ大好きな作品だもん。ずっとずっと、一緒だよ!」


 大好きな作品……。

 そんなこと、初めて言われた……。


「えっ! ごめん、大丈夫っ?」

「ちょっと! さっき私のこと散々言っていたくせに……カタリくんが泣かしているじゃないですか!」

「ご、ごめんなさい……」

「もぉ~!」

「二人とも、ありがとう」

「へっ?」


 敗者の言葉を聞いて、今度は二人の目が丸くなった。


「まだ続けるよ。これからも頑張るよ」


 カタリィとリンドバーグに笑顔を向けた敗者。そして……。


「あ、あれっ?」


 二人はニコッと笑って、敗者の目の前からフワッと消えてしまった。


「……もしかして、これは夢……?」


 その場でヘタッと腰を下ろした敗者。色々なことが一気に起こって、少し疲れたのだ。

 しかし外に出る前と比べて、心は元気だった。そして、ふと空に目を向けると……。


「トリ……!」


 まるでフクロウのような、かわいらしいオレンジ色の生き物が楽しそうにフワフワ飛んでいた。


「ふふっ」


 すっかり癒され、敗者は立ち上がった。


 また何か書こう。


 敗者が「勝者」となる日は、そう遠くはない。

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