道半ばだが、祝福の言葉を贈ろう

虹色

第1話


たまには趣向を変えよう。

君という存在に話しかける、少し変わった話。

まあ、筆安めにはちょうどいいだろう。

人間、刺激が必要だ。

いつも同じでは、飽きがくる。

食事と同じだ。

どんなに美味しい料理でも、それが同じメニューで毎食出れば飽きるだろう。

これならジャンクフードの方がましだと思う時もあるだろう。

つまりはそういうことだ。

これはどうでもいい駄文であり、君にとっての気分転換だ。


僕が誰か、なんて疑問はそこらへんに置いておいてくれ。

別に誰だって構わないだろう。

僕は君に悪さをするつもりはないし、

ただただ、君のこれまでを労い、祝福するためだけにここにいる。

それだけの存在だ。


君はたくさんの物語を作った。

恋愛の話、

空想の話、

冒険の話、

気の向くままに、筆が走るままに。

物語をつむいだ。


その物語の中の人々は、

幸せになったり、

たまには不幸になったり、

頑張ったり、

頑張らなかったり、

喜んだり、

苦しんだり、

楽しんだり、

悩んだりした。


それは、きっと現実に生きる人々の営みと大差ない。

世界を管理する神さまが違うだけ。

君か、正体不明の創造主かの違い。

別にここで、宗教的な話を論ずるつもりはない。

ただの例えのお話だから。



君という作者がいなければ、彼らは存在することもなかった。

だから、誇っていい。

君は君の作った物語を誇っていい。

いや、誇るべきだ。

それが、彼らのためでもある。


いつか、誰かにちゃんとおめでとう、と言われるまで、書き続けるといい。

休み休みでも、書き続けるといい。

読者がいなくても、

アイデアが浮かばなくても、

体調が悪くても、

思い出した頃に、彼らの続きを書くといい。


現実が充実しているときも、

幸せを感じているときも、

調子がいいときも、

自分が紡いだ物語の存在を忘れたときも、

形を変えてでもいいから、辞めないでほしい。

これは僕の我儘なのだけれど。

君には君の世界があり、

君の人生がある。

それは優先すべきだ、

物語に集中しすぎて、自身が疎かになってはいけない。

ただ、忘れてはほしくないなーという僕の願望だ。


そろそろ、僕も疲れてきた。

ひとり語りはあまり得意ではないのでね。

いつか、また僕が登場するときは、相方を所望するよ。

そうだな、明るくて可愛らしい女の子がいいな。


まあ、冗談は置いておいて。


おめでとうと、

たとえ、誰も言ってくれなくても、

きっと君が作った彼らが、

たぶん君が作った彼女たちが、

言ってくれる。

ハッピーエンドで物語が閉じる瞬間に。


でも、その終わりはまだ先のようだから、代表して僕が代わりに言うよ。

僕ごときが、代表すると彼らは拗ねてしまうかもしれないが、まあそれは我慢してもらうしかない。彼らの物語は僕の物語より遥かに長く、終わりはまだまだ先なのだから。


さて、では言うとしようか。

大した言葉ではないので、過度な期待はしないでほしい。

それに、君にこれから伝える言葉はただの一言だけだ。

ただの一言だけだ。

文中にも数回出ているかもしれない。

かつて君も、他者に対して幾度もなく言ったかもしれない、

もしかしたら、君は他者から言われ慣れているかもしれない。

けれど、僕は言う。

君に伝える。

僕という儚い存在から君へ。


この短い物語を書き終えたこと、

『僕』という存在を作ってくれた功績と感謝を讃えて言うよ。


「おめでとう」

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道半ばだが、祝福の言葉を贈ろう 虹色 @nococox

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