第26話 さよならの手

 ずっと握りたかった彼の手を取ることができたのは、彼との別れのときだった。

 今日彼は遠い街へ行く。

 わたしに勇気があったら、せめて今日まではその手を取ることができていたのかな。

「元気でね」

 本当に伝えたかった言葉は飲み込んで、一年間願っていた彼の手は、ほんの十秒間で離された。

 わたしの手は空しさに開いて、彼の背中を見るまで笑顔を作ったままでいた。

 少しして振り返る彼。

 急いで涙を拭ったわたしは大きく手を振った。

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