歪な世界の歪な彼等

瀬良 真水

第1話 脅迫。

燃え盛る太陽の下、心做しか開放的になった生徒達の姿がそこにはあった。


運動部の男子は皆普段の部活動で鍛え上げた筋骨隆々とした肉体を惜しげも無く晒し、

女生徒達はこの日のためにした研鑽の成果をヘソ出しビキニという形で披露していた。


白い砂浜はビーチバレーで和気あいあいと過ごす生徒や、砂の城を作って写真を撮る生徒などで溢れかえっている。


そこには健全な高校生が1度ならば憧れる"南国への修学旅行"のあるべき姿があった。

その光景を画面越しに目の当たりにしながら、俺は溜め息を吐いた。


「なにこれ」


呻くようなそれに答えたのはこの動画の送り主にして、現在進行形で沖縄修学旅行を楽しむクラスメイト・轟 颯馬だった。


『なにってさっき撮った沖縄の動画。

お前見たいかと思ってさ』


わざわざ電話で人を起こしておいて見せるものでもないだろ。

そう言いたいところをぐっと我慢する。


「嫌味か?」


が、思わず出たのはやはり本心だった。


『あれ?わかった?』


当の颯馬はからっとそう返してきた為、

こちらも毒気が抜けてしまう。


現在俺こと佐伯 晴人と轟 颯馬の通う県立緑ヶ丘高校の2学年は沖縄へ修学旅行中なのだ。


……俺を除いて。


別段当日体調を崩したわけでも、

なにか持病があるわけでもない。

単純に行きたくないから行かなかった。


ただそれだけでキャンセルを入れただけの話である。

それをこの颯馬は根に持って、こういった嫌がらせをしてくる。


恐らく俺に一緒に行きたかったから拗ねているだけだと思うので、俺も甘んじて受け入れている次第である。


『で、動画の感想は?』


何かを期待した声色で尋ねてくる颯馬に、ややうんざりしながらも仕方なく答えてやる。


「沖縄なのに薄ら寒いな」


そう回答するも、反応は予想通りだった。


『お前ってやつは……お前ってやつは……』


「悪かったな、捻くれてて」


『素直なはるちゃんはどこ行ったんだよ……小学生の頃、葉月ちゃんに好きって言われて真っ赤になってたはるちゃんは……』


「うっさい昔のことは忘れろ!」


ぎゃあぎゃあと騒いでいると、向こう側が何やら騒がしい。


『あ、そろそろ昼飯らしいから行くわ!』


「わかった楽しめよ」


『言われなくても!』


通話の切れてしまった携帯を少し眺めていると、ぶるぶると再び振動した。

相手はどうせ颯馬だろう。


そう思い、ぱっと画面を見ると送り主は"秋元 美雪"となっている。


「は?なんであのロリ教師が俺のLINE知ってるんだよ」


驚きのあまり、思わず口に出してしまう。

内容は至ってシンプルだった。


『今日登校日。保健室に登校しろ』


「誰が登校するか、折角の休みなのに」


スマホをベッドへ放り投げて、読みさしの本へと向き直る。


と、ヴヴヴともう一度携帯が震える。


……無視しよう。


が、携帯はまたも震えた。


「んだよ、あのメンヘラ教師……」


ぶつぶつ悪口を呟きながら画面を見る。


『5分以内に来ないとお前の小四の時のラブレターの朗読を1行ずつ始める』


俺は大慌てでカバンの準備を始める。

その間もスマホは鳴り続ける。


『はづきちゃんへ』


靴を履いた。


『ぼくは』


自転車に跨った。


『きみが』


「くっそあの教師ぃぃぃぃぃい!!」


自転車のペダルを全力で漕ぎ始めた。


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