#077:再考かっ(あるいは、fly me to the光彼方)
交渉というのもおこがましい私の提案は通った。「造反組」の中では最も持ち金の少ない(1100万)
……よくは分からない。運営側の、私の動向、いやコロコロ代わる人格とか? ……を押さえておこうみたいな考えがあったのかも知れない。
ともかく私の呼びかけにより、ギャラリーから集まった供託金は何と「6281万円」にも達した。既に場に供託なされていた私と里無の「5100万+1100万」の「6200万」と奇しくも同じくらいの額だったわけで。こりゃ凄いわ。
私がもし勝ったら、このお金はみなさんにお返ししますからねっ、と精一杯のキューティクルボイスとあざとー身振りで言ってみたら、どわん、と野太歓声が沸き起こった。オーディエンスを味方につける。それも大事。
さてでも、次戦は私だけ、負けたら前戦の「ボルティック」分が「2倍」された「75,292pt」が加算されて食らうということになる。さっき「30,000」で「意識失うレベル」とか言ってたから、これはもう生命を脅かすレベルではなかろうか。
よって棄権は必至。ってことはぁ、次こそ勝たなきゃダメと。DEPの途中で着手時間終了とか、そんな事は避けないとね。ま、さっきのは……
撒き餌的なものだったんだけど。
意味不明の盛り上がりようの球場内。私は改めて自分のメンタルのピントを合わせていく。球体の檻のような「装置」の中で、呼吸と気持ちを整える。と、
<それではっ、第3ピリオド=ターン2っ、先手、
実況からもそんな注意事項がなされちゃったよ。オッケーオッケー、じゃあ行きますか。
「……『小6のある時、家でくつろいでいたお父さんに、なし崩し的に相手をさせられたことがあって……私の初めてはお父さんとだった』」
喧騒がひゅいっと静寂に移行する瞬間を、耳で知覚した。
「……『それからは何度も、何度も……っ、いつしかそれが普通になっていって……、両親の離婚まで、それは続いた』」
静寂というのも、爆発するが如く拡散していくということを初めて知った。
「……」
着手を時間いっぱいに収めた私は、殊更何でもないとばかりににんまり顔に固定しつつ、目には力を込めて対戦相手の方を見やる。里無の顔からは血の気が引いて、何故か口をあわあわ言わせているけど。どしたの?
<先手:92,227pt>
……「不幸自慢」っていう展開は、避けたいとは思ってたんだけどねー。他に手は無さそうだったし。ま、こいつに勝つにはこいつ以上の「不幸」をぶつけるしかなかったわけで。さあ、どうでる?
<後手、着手して……>
「私も……っ!!」
と、実況の合図を待たずに絞り出たのは、里無のそんな哀切のこもった声だったわけで。見るとその顔は、ぺくしゃりと歪んで、笑ってんだか泣くのを堪えてるんだか、よく分からない感じになっている。あ、……えと。え?
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