第3章:愛はさ、ダメさ、ダメは死
#041:復刻かっ(あるいは、ヨハネス先生……DEPを撃ち合いたいです)
カン、と即座に酔いが回るのが「私」の体質だ。リングの周囲から降り落ちて来るスピーカーを通しての歓声も、遠く、くぐもって聴こえる。
結局は酒の力で現世に舞い戻ってきた私は、まあそれが私なんだろうという奇妙な納得感の中にいるわけなんだけれど。
あまりにもあっさりと戻ってきた私に、セコンドとしてリング脇で待機している丸男とアオナギは先ほどから無言の真顔だ。何か文句でもあんのか?
<第4ピリオド:ライトリング:
D:
第四戦のリングに、既に対局席ごと上げられていた私は、自分のテンションが恐ろしく凪いでいる事を認識していた。
「……」
相対している対局者は、こちらをバカにしきった横目でいやらしくチラチラ見て来ている。安っぽい毛先膨れてる金髪に、片方だけ真っ黄色の虹彩のカラコン。唇の脇には意味分かっててやってんのか? と聞きたくなるほどに大きな銀色のピアスらしきものがぶる下がっているけど。なんとも似非ロックな感じだ。
でも身長があって手足のリーチも長い。引き締まった筋肉が、体にぴったりフィットした「対局服」に滑らかな隆起を与えている。「格闘」は、はっきり手ごわそうだ。
だけど、全力でやらせてもらうわ。
既に決勝への道は閉ざされてしまった私だったが、もうそんなことはどうでも良かった。
私は、私をここまで引き上げてくれた私に、どうしても報いる必要がある。
情けなく奥底に引っ込んでしまった私の代わりに、戦ってくれて、諸々の、屈辱も、痛みも全部受け止めてくれた「私」……かつて思い描いた「
「……」
ほんとの「自分」が、もうやれるんだってこと、見せつけてやらないと。というか、さんざ引っ張ってしまってホンッサーセンでした。
いや、出ようと思えば……まあ、出れなくもなかったっていうか、ええと、うん、ちょっと、甘えちゃってたかな。怒らないでね、
<土師潟選手っ、先手着手だよっ!!>
虚空に向かって、てへっ、と精一杯のキューティクルスマイルをかましていた私に、「ダメ」パートが既に開始されていた事が告げられる。相手方は着手ボタンをもう押してたのね……まあ何でもいい。今のメンタルは凪。
「……フェルメールの『牛乳を注ぐ女』ってあるよな……あれ初めて見た時に、あの滴る白い液体を見て、くく、げひ」
「黙りなイカ野郎」
度し難い淫獣DEPを放とうとした、こいつはやはり似非だ。上っ面のDEPなんか、聞きたくもない。
私の制止の言葉に、顔を歪め、再び何かを言おうとしたそのひしゃげた面に向かって私は続ける。
「『格闘』でケリをつけようぜ……あの『オフェンス』の奴をお互い装着してなあ。いいだろ? 実況……運営」
先ほどからは随分と様変わりしているのだろう、私の狂気と愉悦と、便意をリミット寸前まで我慢しているかのような極限感に彩られた表情に、一瞬のけぞる対局相手。こちとら二週間がとこ、溜まりに溜まったもんがあんのよ。
そのドス熱き衝動を……天井に届くくらいまで、ぶちまけたい……っ!!
<し、しかし水窪選手っ!! 一応ルールというものがございましてっ!>
実況の黄色い奴はそう言い募るものの、私の恍惚と野卑と明確な殺意がにじみ出ているだろう顔貌に、強張った顔のままガタガタ震え出す。
「拒否するのならば……お前の××な××に高出力な××を××込んで、さんざん××した挙句、××にも二股に分かれた××状の××を××して、その状態のまま、××に×××××××やるっ」
私の脅迫めいた言葉に、スクリーンの中で、顔面をいい感じに引きつらせて、黄色がへたりと座り込んだ。
もはやエヒィみたいな声しか出せなくなったその少女に代わって、頭上から落ち着いた女の声が響いてくる、さっきの「ハツマ」とかいう、運営者ね。
<……土師潟選手の同意が取れれば良しとします。よろしいでしょうか?>
案外、柔軟。ま、どうせ消化試合ならば、派手に打ち合わせた方がまだ盛り上げるとでも思っているのかも知れないでしょうけど。
「か、構わねえぜえ、そんなに顔パンパンにされてえのならよお、お望み通りにしてやるよ、オバハン」
相手、土師潟は、そうテンプレ気味の挑発をしてくるものの、ちょっと声震えてない? 大丈夫?
「……向こう一か月」
対する私は、ノーブルでアルカイックな笑みを自分の顔面に貼り付かせて宣いますの、おほほ。
「……固形物を
一点の曇りも無い私の宣言に、土師潟もエヒィ、と小さく声を漏らす。
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