おめでとう
桜染
おめでとう
「おめでとう」今日はあなたにそう伝えるための日です。
愛しているなんて笑ってしまうけれど、笑ってばかりでは伝えられないから、そう、伝える日です。
おめでとう。桜が咲きましたね。人々が卒業しましたね。入学が決まりましたね。社会人の仲間入りをはたしますね。海に行きましたね。おめでとう。
君がいた時間は、幸せがいっぱいでした。特にこの時期は君の誕生日が重なって、暖かな季節に浮かれる心が更に浮かれ、それこそ上空高く飛んでしまうのではないかと思うほどでした。
君は私に言いましたね。「誕生日を和やかに迎えられることほど、幸せな余裕はない」と。私も全くその通りだと思います。だから今年、私はこの時期を恐ろしいほど和やかな調子で迎えています。君のおかげです。
君がいた頃は、それはそれは跳ねる心を抑えつけることができなくて、とてもじゃないけど和やかな心持ちとは言いようがなかった。いつも不安に揺れ、君の笑顔で胸を跳ねさせ、君の声色が脳内を侵食し、君だけが世界の基準だと宣言するように君は私の鼓動を制御していました。
そういえば、君の隣にいたあの子に昔怒られたことがあります。君に執拗くしないでと。君がとても迷惑していると。
笑ってしまいますね。迷惑しているのは君ではなくて、あなたの方ではないのですかと私は尋ねたくなりました。あんなに心が狭い女の子を見たのは初めてです。矢張り、あんな女は君の隣には似合わないのだと思います。
彼女は泣きました。あなたは狂っている、と。私からしてみれば、狂っているのは喘鳴を上げていた彼女の方でした。本当に君を愛しているのなら、自己保身のために声を上げるなんてことをするはずがないのです。結局彼女は、自分が大好きなだけなのです。君の隣にいられる幸福を当然として受け取る傲慢に、私は呆れかえってしまいます。
気がついたら、彼女の耳障りな声は聞こえなくなり、私は安心しました。そして君を想います。心優しい君は悲しむでしょうか。しかし君は強く、そして周りの人も君を放ってはおかないでしょうから、また立ち直るのだと思います。そして、次の新しい恋を探すのでしょう。
桜の咲き始めの季節です。冬、君に触れた手のひらの熱を思い出します。あんな幸せな温度は、これから先もう、一生得られない。彼女に触れた時の温度は忌々しいものとして残っていますが、君に触れた熱は幾日か経つのに温かくて消えません。
君の周りにいた人達は、大変に大騒ぎしているようです。正に、阿鼻叫喚というやつです。ニュースでも小さく取り上げられていました。すぐに、追っ手が来るでしょう。
私は今、君に恋に落ちた海へと向かっています。同じ学校から三人も不審死を遂げたら、世間はどう反応するのかな。それを見られないのが、少し残念です。
君が、万が一にもあんな女の元に行かないように、君の骨は大切に私が持ってきました。もしかしたら、後日のニュースで私と君の秘めた関係性として取沙汰されるかもしれません。そんな下劣な邪推には反吐が出ますが、仕方がない。私と君の崇高な関係性は、きっと誰にも理解ができないのでしょう。
もう少しで海につきます。また君に会えることを心から祈っています。
そして最後に、「おめでとう」。これで君は自由だよ。
おめでとう 桜染 @sakura_zome
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