ヤスくんの本音2
冬が来ました。
「おはようございまーす、あー、あったけー」
部屋に入ってきたヤスくんがコートを脱ぎながら席に向かう。おはようございます、そう言ってPCに向かうと、隣の席の先輩が耳打ちしてきた。
「主任と柴崎さん、同じ匂いする」
「えっ」
「いいですねー、ラブラブで」
自分の体をクンクンと嗅いでみても、全然分からない。自分の匂いって分からないって言うもんな。それにしても、匂いなんてそんなに移るものなんだろうか。だって、私たち……
「えっ、まだなの?!」
「はい、昨日も泊まりに行ったんですけど……」
昼休み。先輩に気にしていることを相談してみた。ヤスくんと正式にお付き合いを始めて3ヶ月。今でも週3のペースでお泊まりをしているのに、何もされないのだ。
「まさか大人になってこんなことで悩むとは思いませんでした……」
「柴崎さん処女なの?」
「違います。ただそう思われているのかも……」
ヤスくんは未だに私を子どもだと思っているような気がする。もちろん手を繋いだり、キスしたり。それくらいならあるんだけどなぁ……。
「私もしかして魅力ないんですかね?」
「その羨ましいおっぱい持っててよく言う!」
「こ、これはコンプレックスなのでやめてください……」
付き合う前は私の言動に動揺しているところが見られたのに、最近は全然。ちょっと迫ってみても「ハイハイ、おやすみ」としか言われない。迫って迫って無理に付き合ってもらったみたいなところがあるから、付き合ってみてやっぱり私のことは恋人として見られないと思ったのかもしれない。
「……私、迫ってみます」
「頑張って」
迫るって、どうやって?
***
今日もヤスくんの家にお泊まりに来たのはいいのだけれど、既にヤスくんは眠りに就いている。しかも向こうを向いて。たまにはぎゅっと抱き締めながら寝るとか、そんなのがあってもいいんじゃないだろうか。
「……ヤスくん」
「……」
「もう寝ちゃった?」
チラッと覗いてみたらヤスくんは目を瞑って動かない。はじめのうちは、今日こそは何かあるんじゃないかとドキドキしていた。今日こそは……今日こそは……と思い続けて早3ヶ月。
「私といてもそんな気にならないのかなぁ」
ピトッと背中にくっついて呟く。ヤスくんの隣にいられるだけで充分なはずなのに。私はどんどん欲張りになっていく。もっと、もっと触れて欲しいって。
「……ヤスくんの馬鹿」
ぎゅうっと抱きついて目を瞑った。向こうを向いたヤスくんが、目を開けてぼんやりと何かを考え込んでいたことにも気付かないまま。
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