【KAC9】ハジマリ

琉葵-るい-

ハジマリ

「やっと、見つけた...」


僕は、海を眺める女性に声をかけた。

女性は、僕の方を振り向き、驚いた表情で見ている。

それはそうだろう、僕と彼女が会ったのは、実に5年振りだ。


5年前、僕らは仕事先で知り合った。

この頃、仕事もまだ少なく、遊び盛りだったのだ。

そんな出来心で付き合い出した。

そう、あの頃は本当に幼かったと今は思う。

やがて、お互いの仕事が軌道に乗り出し、忙しさを増すに連れ、お互いのことも気にしては入れないほど、自分たちのことで手一杯になっていった。

だから、僕らが出会った記念日に終わりを告げた。


でも、今僕は再び彼女の前に現れることを決意して、彼女の元へ来たのだ。

あの日から1度も彼女を好きな気持ちに嘘をつくことは出来なかった。

だからこそ、ここへ来たのだ。


『どうして、ここが......』

「仕事で知り合った君の友人に教えて貰ったんだ」

どこか、ぎこちない空気が僕らを包む。

すると、彼女は怒ったような口調でこう言ってきた。

『どうして来たのよ。なんで...今更になって、会いに来たのよ。今まで何の連絡もしなかったのに、どうして。私は...彼方に会いたくなかった。やっと忘れかけて、傷が癒えかけていたのに...』

「うん」

『なのに...どうして.....」

気持ちが分かるからこそ、相槌を入れることしか出来なかった。

彼女も彼女なりに沢山悩み、苦しんで出した結論だからこそだ。

「...あの時、君のことを何度も何度も忘れようと仕事に没頭したりしたけど、なに1つ思い出を忘れられなかった。いいや、忘れちゃいけないって思うようになってた。別れて初めて気づいたんだ。僕は君じゃなきゃダメだって」


すると、彼女は俯きながら、こう言った。

『その言葉を言ってくれただけでも、充分嬉しい。でも、もう終わったことだから。サヨウナラ』

まるで、今の表情を隠すかのように言葉を言い終わらないうちに走り出す彼女を見て、僕は走り出した。

もしかして、彼女は僕のために泣いているのではないか。

もし、そうなら確かめたい。彼女の本当の気持ちを。

僕は必死に手を伸ばし、彼女の腕を掴んだ。

「......捕まえた」

と言いながら、僕の胸に引き寄せた。

やはり、彼女は泣いていた。


『彼方はずるいよ。あの時、私だって苦しんだし、悩んだ。あんなに毎日が楽しくて幸せな気持ちになったのも初めてで。すごく心地がよくて、ずっとこのままで居たかった。でも、仕事が忙しくなって自分の気持ちしか見えなくなって、幸せを手放すしかなかった。別れた後も、いつも彼方のことばかり考えてた。ほんとバカ見たいだよ」

「あの頃の僕らは、幼かったんだ。

 だからこそ、僕はもう一度この言葉を伝えるためにここへ来たんだ。

 ......もう1度、一緒に始めてくれませんか」

その言葉に俯いてた彼女が顔をあげ、力強く微笑んだ。

その表情は今までで、1番可愛く美しかった。


そうして、僕らは別れてまた始まる日に、

心の底からのおめでとうの言葉を送った。


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