【第41話:新しい街に向けて1】
交易都市テイトリアを旅立つ朝。
いつものように部屋の扉がノックされ、控えめな声が扉の向こうから聞こえてきた。
「テッド~起きてる~?」
「あぁ。起きている。そろそろだろうと思って鍵開けておいたから入っていいぞ?」
「な、なんでわかるのよ!?」
恥ずかしそうに小声で抗議するリシルを宥めて、それよりもと本題に入る。
「もう出る準備は出来ているのか?」
大きな荷物は全てリシルの持つ大容量の魔法鞄に入れてもらっているが、オレもリングとは別に予備の小さめの魔法鞄を持っている。
だから、普段使う物は全てこちらに入っており、2人とも特に準備らしい準備もないのだが。
「着替えも終わったし、後は下で食事したらそのまま出れるわ」
そう言ってその場でくるりと回って、どう? と聞いてくるが、こういう「どう?」に答えの選択肢は無いと思うんだ……。
「あぁ、リシルはその
リシルは年頃の女の子らしく幾つもの服を持っているが、いつでも戦えるように動きやすい服装が多い。
中でも
オレにはよくわからないが、お気に入りの装備だと戦闘もテンポが良くなるそうだ。
ただ……少し短めの裾から見える、白雪のような太ももが目のやり場に困る……。
「へへへ~ありがと♪」
そんなオレの気持ちも知らないで、無邪気な笑顔を返すリシルに、無理やり気持ちを切り替えて話を続ける事にする。
「じゃぁ、準備も出来ているようだし、下で朝飯を食べたら南門に行こうか」
~
朝食を終えると宿の厩舎からメルメを連れだし、2人で騎乗して街の南門に向かう。
ちなみにラプトルのような少し小柄な魔獣は一人しか乗れないが、グレイプニルなどの大きな騎獣は二人乗った上に荷物などを載せておく余裕もある。
それこそエアレーのような大きな魔獣では4人乗りの鞍をつけるのが一般的だ。
そしてナイトメアの場合は、グレイプニルと同程度の体躯に、それをはるかに上回る膂力と持久力を持っており、小柄なリシルとオレなら長い旅路でも全く苦にならないだろう。
「テッド! 昨日も練習兼ねて街の外を走ったけど、やっぱりメルメに乗って移動するのって、すっごく気持ちいいね!」
街中なので昨日のように駆けてはいないが、視点が高い上にグレイプニルに負けない乗り心地で確かに気分が良い。
「そうだな。それに何だかメルメもご機嫌のようだぞ」
あれからオレが昔結んだ
そのためリシルだけでなく、オレもメルメの感情が手に取るようにわかるのだ。
「本当ね! 何だかとっても嬉しそう!」
~
その後もゆっくりと歩いて向かっていたが、それでも四半刻ほどで南門が見えてきた。
「あの豪華そうな馬車がそうかな?」
門の前には、だいたいどの街も広場が設けられているのだが、そこに一台だけ貴族用の馬車が停まっているのが見えた。
他にも3台ほど馬車の姿が見えるが、商人用のものなので恐らく間違いないだろう。
失礼に当たらないように広場の手前で下馬し、貴族の馬車の停車しているところへ向かう。
すると、いかにも貴族の執事といった風貌の壮年の男性が話しかけてきた。
「あなたがテッド様で、そちらの女性がリシル様ですかな?」
「はい。どうぞよろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします!」
リシルは護衛の依頼はほとんど受けた事がないと言っていたので、少し緊張しているようだ。
「わたくしはダルド様の専属の執事をしておりますギレイドと申します。いやぁ~、ギルドからナイトメアの話は聞いておりましたが、本当だったのですね。驚きました。此度は道中の護衛宜しくお願い致します」
その後、セギオンの街までの行程と、同行する人員について説明を受けた。
移動の行程としては、四日後の夕方ごろに到着の予定だ。
そのうち野営は今晩一晩だけで、残りの二日は途中の小さな街に泊まる。
セギオン領に入ると魔物の数が増えるので、冒険者ですらなるべく野営を避けるように日程を組むのだそうだ。
そして今回の構成としては、ギレイドさんの他に身の回りのお世話をするメイドと御者が二人ずつ、先日お会いした赤と青の魔法使いのオリビアさんに、昨日わざわざ迎えにきた2名の地方騎士、そして別口で募集していたC級冒険者が3名にオレたち二人を加えた総勢13名となっている。
豪奢な貴族用の大きな馬車は8人乗りで、ダルド様と御者が乗るのは当たり前だが、そこにギレイドさんとメイドの二人、それにオリビアさんも乗り込む。
そして、貴族用の馬車以外にも荷を運ぶための大きな馬車が1台あり、こちらを残りの御者が操り、C級の冒険者3名が乗り込む。
そして騎士二名はそれぞれ乗ってきたラプトルに乗り、オレ達はナイトメアのメルメに乗って移動する事になった。
ちなみに馬車を牽いているのは、それぞれ二頭のグレイプニルだ。
「さすが次期当主様ね……」
オレにだけ聞こえるような声でリシルが感心するように話しかけてきた。
「何言ってるんだ。リシルの家だって貴族だし、金だって有り余ってるだろ?」
リシル自身も準貴族だし、両親は誰もがしる英雄で魔王討伐前の時点でも、魔物の素材や手に入れた秘宝などでいらないものを売却してとてつもないお金を手に入れている。
魔王討伐後は全ての国から報奨金が出たと聞いているし、その資産はセーラン王国の領地持ちの大貴族にだって負けないはずだ。
「あの二人がそんな贅沢するわけないじゃない……王様が止めなかったら危うく全額寄付するところだったみたいだし」
確かにあの二人なら、お金なんて普通に暮らせるだけあれば良いと寄付しそうだ。
きっと貴族のしがらみで止められたのだろう。
「と言うか、テッドだって贅沢全然しないじゃない。前に所持金聞いて本当に驚いたんだから……」
魔王を倒した報奨金は貰えなかったが、オレは本当なら一番お金がかかる武器と防具が聖魔剣レダタンア一本だけで済み他はいらなかったので、勇者になる前からの貯えが凄い事になっている。
ただ、そのほとんどがリングの中に入っているので、取り出すのに雷撃喰らう覚悟がいるのだが……。
「ところで……私たちって、あまり歓迎されてないみたいね」
リシルがそっと向ける視線の先には、オレたちを睨む二人の騎士と、こちらの視線に気付いて舌打ちをする3人の
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