【第28話:回復魔法のあれこれ】
鍛錬場の真ん中でオレはデリーと対峙していた。
鍛錬場の広さは、民家が5、6軒は入るぐらいの広さがあり、その外周をぐるりと一周するように金網で出来た柵が設けられている。
鍛錬場としての作りはかなり簡易なものなのだが、地方都市の冒険者ギルドにこのような場所が設けられているだけでも感謝するべきだろう。
「どうした? 仕掛けてこないのか?」
デリーの話した感じだと、開始と同時に飛び込んでくるんじゃないかと思ったのだが、意外にも慎重にこちらの様子を伺っている。
「くっ!? うるせぇ! お前こそ仕掛けてこいよ!」
苦労してB級冒険者になったような事を言っていた気がするが、伊達ではないようだ。
思った以上に隙がなく、少し見くびっていたかもしれない。
でも……全く持って想定内のレベルだ。
「確かに。ずっと睨めっこしていても仕方ないしな。お言葉に甘えて、こちらからいかせてもらおうか!」
その言葉と同時に、裂帛の気合いを込めて一気に踏み込んで袈裟切りを放つ。
「ぶわぁ!? は、はぇぇ!!」
さすがにこんな単純な一撃は受けてくれないようで躱されたが、そこから流れるように連撃を放っていく。
振り切った姿勢から流れるように剣を返して逆袈裟に切り上げ、そこから横薙ぎの一閃。
そのまま踏み込みながらクルリと身体を捻って、腰を狙った2連突きを放った。
そして、そこで呆気なく一撃がデリーの鳩尾に入る。
「ぐぼぉぁ!? っげほっ! げほっ!」
鞘越しとは言え重い実剣だ。
デリーは溜まらず腹を抱え込んでうずくまる。
「勝負あり! 勝者……勝者、テッドだったか?」
なんとも締まらないドグランの勝敗を告げる声だった。
呆気なく決着が着いたわけだが、まぁ妥当な結果だろう。
普通冒険者と言うのは、魔物を相手に戦うものなのだ。
稀に盗賊相手専門にしているような冒険者もいるが、盗賊にしても剣術を修めているような剛の者はまずいない。
それに対して、オレは勇者として散々剣術や斧術の達人でもある魔人族の【鬼人】たちともやりあってきたのだ。
いくら聖魔輪転によって位階が下がっていても、そこら辺の冒険者に負けるわけがない。
「しっかし、テッド、おめぇすげぇな! 思った以上にキレッキレの剣術じゃないか!」
「ほ、本当だね。 ちょっと僕も正直凄すぎて驚いているよ……」
ドグランが凄く興奮しており、ゲイルも興奮しつつも予想外の早い決着にかなり驚いている。
「そう思うなら勝負やめておくか? それよりリシル! ボーっとしてないでデリーに回復魔法かけてやってくれよ?」
「へっ? あっ!? わ、わかったわ!」
何故か頬を朱に染めたリシルは、思い出したかのように慌てて詠唱を開始する。
≪光を司る聖なる力よ、我が魔力を
≪癒しの
その紡ぐ言葉によって現れたのは輝く光の魔法陣。
通称、『聖魔法』と呼ばれる非常に稀少な属性魔法だった。
輝く魔法陣から溢れた清らかな光はデリーの身体を包み込んで、その身を奇跡で癒していく。
「あのバカ……」
緑属性にある一般的な回復魔法である『癒しの風』を使うと思っていたのだが、何を思ったのか、リシルが使ったのは光属性の方の回復魔法だった。
オレの黒属性ほど稀少ではないのだが、冒険者で聖魔法が使えるものなどほとんどいない。
案の定、そこにいた3人が3人共驚きを隠せないでいた。
「す、すげぇぇ……も、もう全く痛くねぇ……」
普通の緑属性や青属性にある回復魔法だと、こうも即効性は無いし、ここまで強力でもない。
だいたい街に一つある教会の司祭クラスしか使えないのだから、冒険者でこの魔法による治療を受けた事があるもの自体少ないだろう。
「おいおいおい……長年ギルドにいるが、冒険者で聖魔法使う奴なんて初めてみたぞ?」
「本当ですね……何か君たちはびっくり箱のように驚かせてくれるね」
そして、自分が普段隠している光属性魔法を使ってしまった事に、今頃気付いたリシルがあたふたと慌てだす。
「あっ!? えっと……こ、この属性の事は秘密で! 内緒でお願いしますね! 教会に知られたら、もう物凄く面倒なんですよ!?」
そう。この属性はオレが塔の連中を苦手とするように、リシルの光属性は教会からの勧誘が凄いのだ。
「悪いが
まぁオレも今そんな嫌がらせは思いついていないわけだが、とりあえず半分冗談を織り交ぜながら脅しておく。
「わわわ、わかった! ぜぜ、絶対にこの事は話さねぇ!!」
冗談が通じない奴も一名いるようだが、
「こりゃぁ参った! まさかサブギルドマスターに脅しをかけてくるなんてよぉ! テッド! 気に入ったぜ! もしその子の噂が立ちそうなら俺が揉み消しておいてやるよ」
何故かサブギルドマスターの揉み消し協力を得られたので、この件はたぶんもう大丈夫だろう。
「さぁ、僕も戦おうかと思ってたけど、君たちにはどうも敵いそうにないな。不躾で悪いが僕もさっきの属性の事を黙っておく代わりに、一手指南してくれないか?」
「これはまたえらく態度を変えてきたな。どういう気の変わりようだ?」
「さっきの戦いを見せられてはね。その分だと剣技も使えるんだろ? 僕も奥の手で剣技が一つ使えるが、実力差ぐらいは理解できるさ」
何か良くわからない流れになったが、結局、ゲイルだけでなく、デリーにまで軽く稽古をつけてやることになってしまったのは予想通りの展開だった。
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