35歳の俺は、正義のヒーローに転職しました。

風見☆渚

35歳で正義のヒーローに転職しました。

人の人生、何が起こるかなんて誰にもわからない。

実際、自分の人生がこんな事になるなんて想像もしなかった。

俺は、35歳にして職業“正義のヒーロー”へ転職する事になりました。


35歳、職業が正義のヒーローになった俺だが、現実は月3万の風呂なし共同トイレの格安アパートに住んでいる。なんで俺が今更こんな事やってるかって?

そりゃ、お金に困っているからに決まっている。なんてたって、つい1ヶ月前リストラにあったからだ。文句あるか!?

正義のヒーローと言っても、別に何かが高速回転とかするようなベルトを装着する訳でもなく、見たこともないようなアイテムを片手に変身ポーズを決めて不思議な光に包まれた後に色つきの爆煙の前で色鮮やかなバトルスーツをかっこよく着こなす訳でもない。

まぁ、自動二輪の免許は持ってないけど普通自動車の免許くらいなら一応あるくらい。さすがに、派手にデコった原付でヒーローが登場ってのはかっこ悪いと思うからやらない。

俺だって好きでこの職業についた訳じゃない。でもやってみると案外楽しいというか、今までにないほどの充実感がある。どうですかそこのあなた。正義のヒーローを一度やってみませんか?

といった勧誘も立派な仕事の一つである。


正義のヒーローがする仕事といえば、もちろん街に蔓延る悪と戦う事だ。悪というのは、思っている通りの存在で、恥ずかしくないのかと思えるくらい全身黒ずくめのタイツを身にまとい、街ゆく人々に悪さを仕掛ける存在の事である。

敵の正体は、秘密結社ドワルゴン。ほぼ毎日、街ゆく誰かに嫌がらせをしながら正体もバレてるのに秘密結社と名乗っている事に疑問だらけの彼らが行う悪さとは、コンビニの前にあるゴミ箱を無駄に爆弾で破壊してみたり、通行止めの看板を違う方向へ動かしてみたりといったように悪い事ばかりしている。やっていることが小さな事ばかりと思っているだろうが、想像以上にこの悪さが街にとんでもないくらい大きな被害をもたらすのだから大変だ。

時々現れるが、所謂怪人という者もしっかり存在している。着ぐるみではないかと勘違いするだろうが、ちゃんと何かを改造したらしき怪人が登場する。ちなみに週1回しか現れない。秘密結社側の言い分としては、「資金不足でたくさん怪人を製造する事が出来なんだ!」って言ってた。しかも切れ気味で。だったらやらなきゃ良いのにと思う。


こんな奴らと戦うため、ハローワークの入り口に大きく張り出された求人広告を見て、コレだ!と感じた俺は導かれるように正義のヒーローになった。

だって、正義のヒーローって一応公務員扱いになるらしくて、退職後の手厚い福利厚生が魅力的だったから、勢いでつい細かい詳細を見ないで決めてしまった。規約とかしっかり読まない性格がこんなところに影響するとは思わなかった・・・


そして今日も元気に働きに出かける。

普段の仕事は街のパトロール。この任務は欠かせない。急に現れる黒タイツ集団の存在に気づいた市民の通報が俺のLINEに送信され、即時現場へ直行する。現場までの到着時間が20分以内という規則があるから、変身後のスーツを着たまま巡回してないと絶対に間に合わない。

折角なら片手には重そうに見える変身アイテムを徐にかざし、お決まりの一言と簡単ボタン操作で謎の光に包まれながら瞬間的に変身出来ないの?と思っている人も多いことだろう。いやいや、そもそも無理!

だって変身している間に攻撃されたら絶対に痛い。それに、バトルスーツは見た目以上に意外と重いから、軽々と持ち運びなんて出来ません!

ただでさえ、お決まりの専用武器も一緒に持ち歩かないといけないんだから。そんな変身グッズをキャリーバッグに詰めてたら絶対に現地20分着なんて間に合うわけがない。


あ、報酬に関する説明をし忘れていましたね。

正義のヒーローがもらう報酬は、“おめでとう”の言葉をどれだけもらえたかが査定対象になっています。公式サイトの正義のヒーロー専用アカウント登録してもらっている一般の方々に、画面右下にある“おめでとう”ボタンをクリックもしくはタップしてもらいます。この“おめでとう”ボタンは誰でも押すことが出来て、事件解決やその場にいた一般人、あとは通行人とか噂で聞いた人等など・・・

とにかく専用サイトの“おめでとう”ボタンがたくさんクリックされればされるほど、俺の給料が上がっていく仕組みになっている。

普通正義のヒーローだから“ありがとう”ボタンだと思うでしょ?それがシステムを組んだ人が“ありがとう”ボタンじゃなく、間違えて“おめでとう”ボタンで設定してしまったらしい。しかも、修正するには最初からシステムを組み直さないといけないと言われた職員が、「そのままでも別に問題ないっしょ。」って簡単にOKしたらしい。

手抜き仕事も、ここまでくると諦めしかない。しかも、1“おめでとう”で10円しかもらえないって最低賃金何処いった?

てか公務員ってこんな扱いでいいのかって話だ。それでもこっちは雇われ正義のヒーローだし、もう他の仕事探すの嫌だし、文句があっても逆らえません。

とにかく、街の平和を守ってたくさんの“おめでとう”を稼がなくてはならない。それでもなんだかんだ違和感なく意外とみんな“おめでとう”ボタンを簡単にたくさん押してくれるからありがたい。


スマホが俺を呼んでいる!さて、今日も仕事だ仕事!

変身スーツを身にまとい、アパートから30分くらい歩いた先にある3丁目の自動販売機で一休みしていた俺のスマホに救援要請の知らせが届いた。


なになに・・・今日の救援要請は?・・・・


“秘密結社ドワルゴンの構成員によって5丁目にある木村隆様宅の門が破壊された。しかも飼っている犬2匹が逃走。怪人他数名の撃退と逃走した犬の確保も願いされたし”


マジか・・・あそこの犬って中型犬でいっつも俺に向かって吠えるし噛みつきそうになってくるんだよな~・・・

犬の確保も任務に含まれるのかよ。あ~気が重い。でも急いで急行しないと減給される!


ヒーロースーパーダッシュ!!


説明しよう!“ヒーロースーパーダッシュ”とは、謎の天才発明家が開発した正義の味方専用バトルスーツによって全身の身体能力が飛躍的に向上され、なんと全速力で走れば通常の3倍の速度で走る事が出来るヒーローだけが扱えるスペシャルな技である。ちなみに走っている間は赤く点滅しながら光るから、みんなパトカーと間違えて道を譲ってくれるオプション付きだ。


そんなこんなで35歳の俺は、公務員として正義のヒーローを精一杯やり遂げるべく、文字通り日々粉骨砕身奮闘している。

是非、あなたもヒーローにならないか?

てか、なってください!

俺一人じゃ無理なときとかあるし、ヒーローって大変でめっちゃ忙しいし、しかも一人って結構寂しいんだよ。バトルスーツも俺のお古じゃなくて、ちゃんと新品の新型スーツとかもらえるし!今ならなんと、一人紹介する毎に特別“おめでとう”ポイントが5,000ポイント入るとか他にも特典盛り沢山!

現在絶賛追加メンバーを募集中だ!

さぁ、君も街のために正義のヒーローになろう!

ん~・・・ダメっすか?

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35歳の俺は、正義のヒーローに転職しました。 風見☆渚 @kazami_nagisa

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