2. イシュレットガントははっきり言って魔境だと思う

 うーーーわーー…すっごい人。まだ町の中に入ってもいないのに人だらけ…

 どうやらこの町に入るためにこの人たちは並んでいるっぽい。…ん?ということは私もこの列に並ばないといけないってことじゃないかっ


『あるじ…人間たくさんっすね』


 見ればわかることを言わなくてもいいと思うんだけど…それよりこの犬も連れて並んでいいのかしら?


『だーかーらー狼っすよ?』


 まあぱっとみ犬みたいだし問題ないかな。


 他の人たちに習って私も列に並ぶことにする。銀太も大人しくついてきているせいか誰も気にしている人はいないみたいだ。


 それにしても思ったより列が進むのに時間がかかっている。前に進むのを待つ間に『おじょうちゃん1人で来たの?えらいねー』とか親切っぽく見える人に声を掛けられてしまったではないか…まあ、みんな待ってるときは暇ってことよね~っていうか私何歳に見られたんだろう…これでも一応17歳なんだけどな。


 お…?もうちょっとで町には入れそう??なんか警察っていうか警備員みたいなとりあえず同じ服装した人が何人かで立っているところが見えてきた。長かった…1時間くらい経ったかもしれない。まあ時計とか持ってないから正確じゃないけどね?


「はい次~…ん?」


 なんだこのおっさん私のことをジロジロと見てくる…


「君身分証はないのか。じゃあ銀貨1枚ね。」

「身分証…?」


 身分証っていうのはあれか自分が何者かを表すなんかだよね…もちろん持っていませんよ?持ち物は着ていたパジャマだけだったしだからもちろんしぶしぶ銀貨渡しましたとも…ええ。


「君ちゃんと身分証を作っておくといいよ。ギルドでならどこでも作れるからこの後行っておいでね。」

「ギルド…」

「そうギルド。いろんなギルドがあるからひとまず自分に合っているとこのがおすすめだね。」

「ふむ…お金を稼ぎたくて、後いろんな情報も欲しい。この場合はどこのギルドがお勧めですか?」

「そうだな…どうやって稼ぐかにもよるがまあ冒険者ギルドが一般的かな。」


 なるほど冒険者ギルドか…門に立っていたおっさんにお礼を行った後私は門をくぐりイシュレットガントという町の中に一歩足を踏み入れた。


 わーー…さらに人が多いや。そして建物もたくさん並んでいる。なんていうか……日本じゃないどっか外国とかにありそうな建物。それがびっしりとならぶ様子は中々驚いてしまうわね。


 さて、まずはどうしようか…冒険者ギルドで身分証を手に入れるべきかしら?それにちょっとおなかがすいてきた気がするのよね。先に今日泊まる場所を確保して何か食べるべきかしら…?


 まあ…なんにしても場所がわからないわけですけどねー?


 仕方がないので誰かに声をかけるかどうしようかと周りをキョロキョロと眺める。するとさっき入ってきた門の近くに大き目の看板のようなものを見つけた。近づいて見てみるとどうやらこの町の簡単な地図のようなものだったみたい。


 民家には何も書かれていないけどそれ以外の場所には名称が書かれていて、初めてこの町に来た人には大変助かる代物だった。


「ギルドはここなのね。」


 ひとまず冒険者ギルドはすぐに見つかった。ここから割りとすぐの場所だったので急がなくてもよさそう。それならまずは今日の宿を探すべき…


 今度は宿を探すために地図を眺める。


 えーと…いくつあるんだこれ?気のせいか宿がかなりたくさんあるんだけど…どこがいいのか地図見ててもわからないなー。


『宿っすか?じゃあご飯食べれますね。あっ肉が食べれる場所を希望~』


 そんなこといわれても知らんがな…まあ……この門から東側に進むと冒険者ギルドがあるみたいだし、その周辺には宿もたくさんある。迷子になると困るからとりあえずそっちのほう歩いてみるしかなさそうね。


 進む方向を決めた私は東側の通りを歩くことにする。さっき地図を見たときにも思ったけど文字は問題なく読めるようで大変助かる。何語で書かれていたのかわからないけど文字の形は初めて見たような気がする。


 ん…ここは宿のようね。ちょっと大きめ、もしかすると宿代が高いかも…?こっちは何も書かれていない建物…じゃあ民家なのかしら?というかやっぱ宿が多いな…あっ冒険者ギルド発見。後でここに戻ってこよう。それにしても冒険者って…やっぱり冒険者のこと?


 そんな感じで周りを見ながら歩いていると気になる建物を見つけた。小さな建物で周りと比べるとかなり古そうだ。ここの町並みから少し浮いた感じ。


 …なんだけどなんか気になるのよね。


 その建物の前に立ちまずは眺めてみる。感想としては廃墟っぽいので誰も住んでいなさそう。それなら中に入ってみても大丈夫かな…?


 建物の正面にある扉に触れてみると「ギイイィィ…」と錆付いた感じの重い音を出しながら少しだけ開く。その隙間から中を覗いてみると、窓から差し込んでいる光でかろうじて中の様子が見えた。


 まるで教会みたいだわ…たくさんの椅子が並び正面になんか机みたいなやつがある。左右の壁には大きな細長い窓。うん…教会なら自由に入っても怒られないわよね?


 と言うわけで私はこの廃教会?に入ってみることにした。


「おじゃましま~す…というか誰かいますかー??」


 ……うん。誰もいないみたい。物音特にしないし話し声とかもしてこない。廃墟決定。


 少しだけホコリっぽさを感じる。ところどころ壊れかけている椅子もある。だけど思ったより壊れたりホコリが積もっていないのが不思議。このあたりが普通とちょっと違うかなーと感じるところ。リナが魔法がどうとか言ってたことを考えると、ここも何かしらその魔法というやつの影響を受けているのかもしれない。


 さて…私は何が気になってここに入ったのか…その原因とやらを探して見ますかっ


 椅子の間を順番に練り歩き何もないことを確認する。壁は窓がはめ込まれているだけで特に気にならない。気になるというと右側奥に1つ扉があるくらい。でもそれよりも気になるのが正面中央にある机のあたり。その机の奥に1つ石像が立っている。


「何の石像かな…」


 見た目で性別がわからないがとりあえず人の形をしている。服装は…どうなっているんだろう?布が複雑に絡み合った感じで危なげなく肌を隠している。


「ここが教会だとすると何か信仰している対象ということかしら…」


 祈るように手の指を絡め、膝をついて目を閉じてみる。別に本当に祈っているわけではない。なんとなくこの場の雰囲気にのまれやってみただけというやつだ。


「なんてねっ…あれ、銀太??」


 足元にいたはずの銀太がいない。というかよく見てみるとさっきまでと場所も違うみたい。目の前にあった机も銅像もない。後ろを見ると椅子も消えて、見えているのは…


「浜辺…?」


 なんかプライベートビーチみたな感じ…いやまあ見たことないから知らないんだけどね?それほど広くない浜辺でパラソルが1つある。よく見るとそこに誰かいるみたいだ。


「おや、お前は…」


 女の人…いや男の人?がこちらに気がつき振り向いた。え…どっち?


「………」

「………」


 パラソルの下の人が大きなため息をつくと浜辺が消えた。と言うか周りが何もなくなったと言うのが正解?周りが真っ白で少し眩しい感じ。


「今日は休暇だったのに…で、えーと…あー…なんの用?」

「え?いや……は?」


 私はこの人に用はないよ…?そもそもここがどこなのか知りたいくらいなんだけど。ほんとにもうなんなの…私の目がおかしいのかなやっぱり。見えてるものがころころとかわりすぎ…


「ふむ、そうか魔法が存在している世界に戸惑っているようだな。まあそれでもお前にはやってもらいたいことがあるから慣れてもらわないと困るのだがな。」

「やってもらいたいこと?」


 この人もしかしなくても私のこと知っているの…?そしてまた魔法って言葉が聞こえたんだけど。もしかしなくても流行なのかしら。


「ああそうか。何も説明していなかったな…お前がこの世界にいるのは私が連れてきたからだ。」

「連れて来た…じゃあ帰してくださいっ」

「まだ話が終わってないぞ…」


 うえー…どうやってここに連れて来たのか面倒だから聞かないけど早く帰してほしい。


「やってもらいことがあると言っているだろうが…それが終わり次第帰してやる。」

「そうなの?ところでおねーさん?おにーさん?は誰なんですかね。」


 まあ帰れるならもう何でもいいや。出来ることなら何でもやろう。


「私に性別というものはない。お前達の言うところの神という存在だからな。」


 かみ…?紙…髪?いやまさか神とか??深く考えないほうがいいのかな…ほんとここは痛い人が多いのね。


「えーとそれで自称神の人が私にやってほしいことってなんですかね?」

「自称と言うところが気になるが…そうだなまずは今からすぐに冒険者ギルドへ向かってくれ。」

「冒険者ギルド…?あれ…というか今まずはとかいいませんでした??」


 …あっ


 気がついたら私は手の指を絡め膝をついている状態、祈っている形だった。


『あるじ~まだご飯食べれないんですかね?』

「銀太…」


 ん~~?どういう状況かまったくわからない。とりあえず自称神の人が言うことをやれば帰れるとか言ってた気がする。信じるなら、だけど。


「あ…じゃあ冒険者ギルドいかないと!」


 信じているわけじゃないけど冒険者ギルドへいくだけなら何も問題はなさそうだから試してみる。元から行くつもりだったしね。


「銀太まずは冒険者ギルドいくよ。」

『おなかすいた~…』


 廃教会を飛び出し来た道を戻る。ここにくるまでに一度冒険者ギルドの前を通っているから迷うことはない。たくさんの人がいる間をすり抜け急ぎ足で進む。今すぐと言っていたので少し急いだほうがいいかもと思ったからだ。そのままの勢いで冒険者ギルドに入ろうと扉に手を掛けると中から出て来た人とぶつかりそうになった。


「ご、ごめんなさいっ」

「とちらこそ悪かったね。」


 チラリと相手を見ると大人の男の人と女の人あと男の子の3人だった。もしかすると親子なのかなとか思いつつとりあえず謝り冒険者ギルドの中へと入っていった。


『あるじ~なんで急いできたの?』


 何かここにこなければいけないって言うから来たんだけど…私は何をすればいいんだ??そういえばその辺のところ何も聞いていなかった…というか教えてくれなかったよ!


「え~…どうしよう。」


 うーん、とりあえず本来の目的でもやっとく?身分証だっけ…どこで作るんだろう。


 キョロキョロと周りを見るがよくわからない。とりあえず人が多すぎて何がなんだか首を傾げてしまう。壁に貼られている紙を眺めている人達、テーブルについてまだ明るい時間なのにお酒を飲んでいる人、同じくテーブルで数人で何か話し込んでいたり、いくつかあるカウンターらしきところには列が出来ている。


「なにやら困っているようだな…」

「え…?」


 私の挙動がおかしかったせいか話しかけられた。さっきぶつかりそうになった人達だ。そのうちの男の子がどうやら声を掛けてきた人みたい。


「あーえーと…身分証?ってどこで作ればいいのかな?」

「なんだ別の国から来たのか…それならその行動も頷ける。」


 えーと…つまり田舎者まるだしっていいたいのかしらこの子。まあ実際そうだからしかたないんですけどね。


 そんなことを考えていると男の子は私の手を引きカウンターの1つへ引っ張っていく。ちょっと強引な気もするけど確実な方法を取ってくれたのだろう。男の子がカウンターにいくとその内側にいた女性、多分このギルドの関係者だと思う人が気がついてくれた。


「あらアスカルード様まだ何かありましたでしょうか?」

「ああ、こいつがギルドで登録したいそうだ、頼めるか?」


 どうやらこの男の子はアスカルードと呼ばれているみたいだ。うん、やっぱり横文字の名前なんだ。一体どの辺の国なんだろう…


「ではまずこちらを腕にはめてください。」

「腕輪…?」


 よく見るとこの目の前の女性もアスカルードって子もつけている。というかその辺にいた人達もみんなつけていたかもしれない。あまりよく見てなかったけど。


「これはなに?」

「身分証ですね。いろんな情報が書き込めたり見れたりします。まずはこのギルドへの登録情報を書き込みたいので腕にはめた後、こちらのパネルに腕輪をはめた手を置いてもらえますか?」


 よくわからないけど周りの人達もみんなはめているし危険なものじゃなさそう…かな?


 腕輪を左腕にはめカウンターの上にあるパネルに手を置いた。


「では名前と年齢だけお願いします。」

「菜々美、17歳。」


 名前と年齢を言うとパネルが薄っすらと光り、その光りが腕輪の中へ入っていくのが見えた。なかなか不思議な光景でパネルの光りが消えると逆に腕輪が光っている。


「はい、登録が終わりました。次にギルドの説明をしますが聞きますか?」

「いやいらないだろう。俺が教えてやる。」

「ちょっとアスカ様~まだこれからの予定がありますのに勝手なことをしては困ります…っ」

「別にいいだろう。食事のついでに済ませればそれほど時間もかかるまい。」

「まあそうなんですけど~」


 一緒にいた大人の女の人だ。この会話からするとどうやら親子ではなかったみたいだ。


「ちょうど退屈していたのだ。食事代も出してやるから暇つぶしに付き合え。」

「…え、いいの?」


 お金が浮くのはとっても助かる。だってまだ稼げる保障もないしそれに…


「あの~この子のご飯も一緒にもらえます?」

「ああもちろんいいぞ。じゃあ決まりだな。」


 この犬のご飯代も浮くしね!


『あるじ…だから狼ですって…聞いてますか?』


 アスカルードに腕を引かれ私は今から食事にありつけることになった。しかもただ飯、やったねっ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る