第109話 先代の6人目
ここはアリソナ砂漠の中心の監獄。
アイシクルプリズン。
罪を犯した罪人達が放り込まれる本来なら灼熱の砂漠の上の監獄だが。
何故か雪と氷で覆われおり今では氷のいや氷漬けの監獄になってしまったのだ。
涼達は手足を封じられしかも剣も奪われ、更にこの手錠で魔宝術も使えずツルハシ片手に氷を掘らされているのだ。しかもダサい囚人服を着せられてだ。
「くそ!もう3週間もこんな事させやがって!」
「全くですよ…何で僕達がこんな事を…」
「元は君達のせいだろうがっ!!」
コハクが声を上げた。
「ご、ごめんなさい…」
「コハクもう辞めとけって!」
「君は本当に甘いんだよっ!だいたいこの状況はこの三馬鹿が砂漠の主を倒したからだろうがっ!!」
「ごめんなさい…」
そうこの状況は実は先代の馬鹿勇者の3人が招いたことだったのだ。遡る事3週間前。
:
突然フードを被った者達に捕まった涼達はこのアイシクルプリズンへ連れてこられ、そこでこの監獄の責任者に合わされた。
「ようこそ犯罪者諸君。私はここの官庁をしているエドワードだ。」
座っているのは酷い無精髭を生やし二本の角を生やし翼を生やした男だった。
「あ!魔人族!!」
「たわけっ!違うわ!私達はドラゴニュートだ!」
「ドラゴニュート?」
ドラゴニュートとはリザードマンが成長した姿で人型の竜の姿をしており、中には人間みたいな見た目の奴もいるのだ。本来ならこんな場所ではなく湿地帯に生息しているのだ。
「間違えて悪かったよ。ていうか何で俺たち捕まってんだよ?」
「決まってるわ!そこの奴がこの地を破滅させた張本人だからだ!」
エドワードは愛を指差す。
「ぼ、僕ですか!?」
「ああそうだ!先代の馬鹿勇者共だ!!」
「「何っ!?」」
涼とコハクは声を上げた。
「どういう事だよ?」
「聞かせてやろう。今から100年前だ。かつてこの地を巨大なデザートワームが住んでいたんだ」
「デザートワーム?虫のデザートなんかくいたかない」
「違うよ涼!砂漠に住んでるデカイミミズだ!」
まあそんなもんだ。多分。
「そのデザートワームがどうしたんですか?」
「ある時、そこの馬鹿勇者の3人がデザートワームを倒してしまい、神殿に収められていた宝が奪われた。」
「砂漠の宝?」
「デロスペルマという花だ」
デロスペルマとは砂漠地帯に咲く植物で砂漠のトパーズと呼ばれる。
「愛何か心あたりあるか?」
「確かに昔僕達が…デカイミミズみたいな魔物を倒したような…」
「「オイ!!」」
マジかよ。お前らの昔の爪痕がこの地をおかしくしたのかよ。
「でも花なんて知りませんよ!」
「嘘をつくなっ!!貴様達が花を奪ったせいで砂漠の生態系は完璧に狂ったのだ!おかげでこね有様だ!!」
「その花って何か力があるのか?ああ、砂漠の植物達に活気を与えていた大切な花だ!」
「それだけ?」
「悪いか?」
「いや待てや!たかが花一輪なくなっただけでこんな事態になるか普通??」
確かにその花が砂漠を制御する力があるなら話は判るが、活力を与えるだけの花にこんな天変地異が起こるなんて有り得ないぞ。
「確かにミミズをぶっ飛ばしたのはこいつらかもしれないが、この吹雪はいつから起こってんだよ?」
「10年前からこの有様だ!」
「だったら余計におかしいだろ!なんで一世紀以上前に倒されたミミズの後じゃなくそんな最近の出来事なんだよこの吹雪が!!」
「確かにデザートワームが倒されてすぐにこうなるなら辻褄は合うがそんな最近なら感冷静は全く無いじゃないか!」
確かにデザートワームが倒されてその花が奪われすぐにこんな異常事態になったんならこいつらが悪いがそんなずっと後になって突然こうなると何て普通におかしいだろ。
「黙れ!貴様らが全ての元凶に変わりはない!!」
「俺達はホウキュウジャーだ!正義の味方だぞ!」
「黙れ!ここに入れば貴様はもはや勇者ですらない!」
「くっ…」
「生きて帰れると思うなよ。人間族に亜人!」
エドワードがそう言うと涼達は身ぐるみを全て剥がされ囚人服を着せられ今に至るのだ。
:
「コハク。イライラするのは判るけどよ、あのドラゴンの言ってた事は違うだろ!」
「確かにこんな氷地獄に成り果てた原因は別にあるとは思うが!」
「だったら仲間割れしてる場合じゃないだろ!」
「そうティラ!」
首に鎖を巻き付けられ荷馬車いっぱいの氷を運ばされているルビティラ。
「さっさと行け!」
バチン!
鎖でルビティラの体を叩く看守。
「痛いティラよ!」
ルビティラはぶつぶつ言いながら氷を運ぶ。
「すみません…僕が昔馬鹿な事したばかりに…」
「今更仕方ないさ」
「だが、この状況はどう見ても僕達は悪人だぞ!」
確かに周りにいるヤバそうな連中と同じ扱いじゃな。なんとかしないと。
やがて作業場に広がる甲高い音。
「作業終了!さあ檻へ戻れ!」
罪人達が嫌々監獄へ戻っていく。
再び監獄へ戻り牢屋へ入れられた涼達3人は既にこの牢屋にいた罪人と相部屋だった。
扉の鍵を閉めた看守はその場を離れて行った。
「くそ…剣さえあれば…」
「術さえ使えれば」
「すみません…」
「少し静かにしてくれないか?」
取り付けられているベッドの上で寝ている男がそう言う。
「あ、ああすまない」
「お前ら何でまたこんな所に?」
男が顔を見せた。
その男は金髪で長い耳をしていた。
「エルフ族!?」
コハクが声を上げた。
「エルフ族ってゲームとかで見るアレだよな?」
「ええ、RPGでは当たり前のキャラクターです」
「君達の時代の話はいいから」
「何だ?エルフ族が珍しいか?」
「そりゃまあね。エルフ族は森に居てまず僕等や人間族と交わらないからね」
エルフ族は森に住む神秘の力を持っている種族で更に皆長寿で凄い長生きなのが特徴だ。見た目二十歳中身は1000歳当たり前の事らしい。
「アンタ何でこんな所に?」
「別に盗みを働いただけだ」
「盗みってエルフ族にはそんな盗む様な物がこの地にあるのか?」
「どう言う事だ?」
「エルフは宝を沢山持ってるイメージですからね。先生の時代でもそんな感じじゃないんですか?」
あ、確かにそうだわ!
宝をたんまり持ってるイメージだ確かに。
「そう言うお前らは何で捕まったんだ?」
「俺達は別に何もしてないぞ」
「やったのは僕ですよ」
「あん?お前が?」
「はい、信じないかもしれませんが…」
愛はエルフ族の男に現状を全て話した。
「なるほどな。お前が先代の勇者で今の勇者たちの仲間って事か」
「確かに昔は色々あったさ。でも愛は今その罪に向き合って頑張ってる!」
「たく、言わんこっちゃない。」
エルフの男はそう言うとベッドで再び横になる。
「言わんこっちゃないって?何か言ったかアンタ?」
「だから異世界からは呼ぶなと言ったんだ。返却して大正解だったな。この馬鹿の茶番に付き合わされずに済んだからな」
「アンタ?何言ってんだ??」
「あーまだ言ってなかったな。俺は、ミハエル。元先代の勇者の1人だ。」
「「「はっ!?」」」
今何て言った!?元先代の勇者て言ったか!?
「ちょ、待て待て!アンタが先代の勇者の1人だって!?」
「うるさいな…元だよ。剣はブラキオに返したんだ」
「貴方がブラキオが言ってた6人目の先代勇者だったんですか!?」
コハクがそう言う。
「まあな。昔の話だよ。ていうか俺は剣を返したから勇者ですらないよ」
「マジかよ…」
「意外な場所で意外な人に会うな」
「あの、砂漠の薔薇って知ってますか?」
愛が聞いた。
「砂漠の薔薇だあ?そんなもんこの氷の下だよ。」
「マジっすか!?」
「お前らがせっせと掘ってる氷の先だ。砂漠の薔薇があるのはな。」
「だったらこんな所にはいられないぜ!」
「脱獄する気か?辞めとけよ死ぬぜ」
「まあそうだろな。」
涼もそう感じていた。
こんな氷の塊を壊すのも穴を掘るのも多分無理だ。たとえ出来ても寒さで凍死するだけ。だから氷の真下にあるんだろうなこの監獄は。
「つかよ。砂漠の薔薇は脆い石だ。この氷のせいで大半が割れてるだろきっと」
「アンタ先代勇者なんだろ?」
「だから返却した元な!」
「昔のよしみで手伝ってくれよ!」
「バーカ。昔もクソもお前らには何の情もないよ。わかったらさっさと寝ろ」
ミハエルはそう言うと布団へ潜る。
「なんだよつれないな…」
「ていうか涼。本気で脱獄する気か?」
「おうよ!」
「先生…幾ら何でもそれは駄目ですよ」
「何でだよ?後でアリシア達に何とかして貰えれば簡単だろ?」
いや脱獄なんかしたらそれこそ姫様に大迷惑が被るし。しかも勇者が脱獄なんて知られたら。
「そんな事したら姫様に滅茶苦茶叱れる上にガネットの牢屋に放り込まれるぞ!」
「迷惑かけてらそれこそ水の泡です」
「じゃあ、どうすんだよ!」
「今は様子を伺うしかないよ。」
「それしか無いですね…」
「くそ…ルビティラ大丈夫かな〜」
:
「言われた通り奴らを放り込みましたよ。アイカ様」
「ご苦労様ですわエドワード。」
看守室に座って紅茶を飲むアイカ。
「貴方はパパと古い知り合いで助かりましたわ」
「いやいや、テナルディエ様は私の主人でしたからね。それがあの連中に殺されたとは。何とも惜しいお方だった」
ここの官庁エドワードは実はアイカの父、テナルディエの使い魔であり良くして貰っていたのだ。
「テナルディエ様と別れて数十年、まさかあやつらに殺されていたとは。しかも私達の故郷を氷漬けにしたのもあの者達の仕業とは、何とも嘆かわしい」
「エドワード。貴方は父に命を救われた身。その身をもって私に力を貸してくださるかしら?」
「は!テナルディエ様のご令嬢である貴女様の為なら。」
「私の父が焼き払われていた貴女の村を救い助けた恩を忘れないでくださいまし」
「は!けして!必ずや奴らの首を貴女さまに献上いたす事を約束しましょう!」
「では、頼みましたわよ!」
アイカはそう言うと扉を開け出て行った。
:
アイカは空間を通ると別の場所へ行く。
そこは暗く青い氷に覆われた場所だった。
「全く貴女は趣味が悪いですね」
「あら?私は嘘は言ってませんわよ」
「ですが、あの看守達の村を襲うよう手引きしたのはテナルディエ様だったじゃないですか?彼は言わば勘違いしただけで」
「ドクターは口が過ぎますわよ」
そこにいたアッシュベルと皇時也は知っていた。エドワードの村を襲う様に手引きしたのは他ならぬアイカの父、テナルディエだったのだ。彼は偶然助けられたと思い込んだエドワードを言いように使っているだけだったのだ。
「お互いに苦労するね。時也くん」
「ですねドクターアッシュベル」
「それよりドクター、アレは大丈夫ですの?」
「僕が作った自信作だよ。折り紙付きだよ!」
皇時也が自身満々にそう言う。
「確かに凄くね。このアイスドラゴンは!」
アッシュベルの振り向く先には巨大な氷の身体を持ったドラゴンが上に向かい氷のブレスを吐いている。そう砂漠が天変地異に襲われたのはこのドラゴンの仕業で魔人族が裏にいたのだ。その事をまだ涼達は知らない。
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