第59話 言い訳

身体の大半を奪われたブラキオサンドライトは切り離した身体で分身を作り魂を入れ替えた。しかし、その姿はもはや産まれたばかりの首長竜である。

「本当にブラキオサンドライトなの?」

「まあいいだろ、今はこんな姿だがな…全くかっこ悪い…」

なんか喋り方まで若いというか。貫禄無くなったな。

「でも何でそんなチビに?」

「とっさに身体をバラしてその一部に魂を移したのさ。今じゃお前ら13体分の力しかだせん…」

そんな姿になってもルビティラ達の13倍のパワーがあるのかよ!?

「さてと。我は良いがあの道化どもはどする気だ?」

力を無くし魔王軍に騙される良いように利用された三人に冷たい言葉を言い放つブラキオ。

「どうするって…もう何の力もないんだろ」

「無論だ。あの戯けどもの力はとうに無いからな。我が奴らの魔宝石を砕いた」

あーつまりとうに何も出来ないのな。

「オイ間抜け共。今の気分はどうじゃ?」

「ちっ。」

舌打ちしながら怒りを露わにする三人。

「オイ爬虫類!黙って聞いていれば。俺達だけが悪い言い方しやがってっ!」

「戯け当たり前だ!お前らが全て悪い!」

「ちょブラキオ。」

「お主らは黙ってろ。この愚かなワッパ共にはちゃんと理解させんとならんからな。」

確かに今までこの世界をゲームと思って好き放題にやってたからな。ブラキオも言いたい事が沢山あるんだ。

「何勝手な事を言ってるんですか!勝手に人を誘拐してこんな所に呼び出したのは貴方じゃないですか!」

「自分じゃ何も出来ない爬虫類が。人間の力を借りなければあんな奴ら共戦えないんだからな。」

「ほぉ〜でわ自分達には非はないと?」

「当たり前だろ!俺達は被害者だ!」

「僕達も騙されていたんですよ。未成年の僕達にはちゃんと発言権があるんです!」

「俺達はお前の勝手な召喚のせいで帰る場所を無くしたんだ。俺達は悪くない!」

「はぁ〜救いようの無い馬鹿だなお前らは」

ため息を吐きながらブラキオは口を開く。

「何だと!そんなチビに成り下がった間抜けな爬虫類に言われたく無い!」

「大体被害者の僕達が罰せられる方がおかしいんですよ!」

「そうだ。俺たちは被害者なんだぞっ!」

「涼?」

涼は言い訳ばかり言っている三人の元へゆっくりと歩く。その顔は冷めている。

「だから俺達は悪くなっ…」

「いい加減にしろよ!このクソ餓鬼共っ!」

涼はついに堪忍袋の緒が切れてしまい怒鳴り上げた。

「な、何だ?どうしたお前?」

びっくりしたブラキオはひっくり返った。

「な、何ですか一体!?それに貴方僕の足をこんなにしといて一体何の権限があっ…」

「足はお前の自業自得だ!いつまでも他人のせいにしてんじゃねぇよ!」

涼は殺気を出しながら怒鳴り上げた。

「り、涼…」

あの優しい涼がこんなに声を荒げて怒鳴り上げてる。

「そもそもこの世界をおかしくしたのはお前らが原因だろっ!一番悪いのはあのヴァニティとか言う魔王だが。唆されて騙されたお前らも同罪だ!」

「な、俺達はただ家へ帰る為の方法を聞いただけで何も悪いことは…」

「場の状況を把握もしないで目の前の言葉に流されて実行するのは身勝手以外の何者でもない。お前らの好きなゲームで言うなら攻略方をカンニングしてやっただけだ。」

そうコイツらは自分達で何かをしたんじゃなく他人の見つけたやり方に便乗していたのと同じだ。

「前にも言ったがお前らはただのクソゲーマーだ。自分が負けそうになれば相手を罵って難癖つける。自分は悪くないだぁ?今までやって来た事を棚に上げて他人のせいにする。そりゃ楽だよな?そう言う奴が生意気なクソガキ呼ばわりされて社会から抹消されるんだよ!」

「今は社会は関係ないじゃないですか。話を変えないで下さいよ。この世界は僕達の現実なんかじゃ…」

「現実だ。この世界にも社会はある。お前らがやった事はなんだ?許される事じゃないんだよ人殺しはなっ!」

涼の言葉に血相を変える三人。

「俺達が人殺し…違う…」

「違うわないね。お前らは立派な反社会組織の人殺しだ!」

「違う!僕達は…ただ…」

「ただ何だよ?」

涼はグイグイと彼らを責めていく。

「…帰りたかった…だけで…別に人殺しは」

「現実とゲームの区別が出来ないのをいい事に生き物を無差別に殺していい訳ないんだよ!お前らが無差別に魔物達を狩ったせいで生態系は崩れるわで、皆んな迷惑してたんだよ。それは考えた事あるのか?」

無論ゲームのイベントと思っていた三人は考えた事などない。

「お前達は勇者と煽てられて好き勝手にやり放題。その結果がこれだろ。見ず知らずの奴話術にハマって騙されて聞く耳をもとうとしなかったばっかりにどれだけの人が死んだと思ってるんだ!」

「黙れ…」

「お前らを慕ってた人達も絶対にいたはずなのに恩を仇で返し。さらにはルビティラ達を素材扱いし剰え同胞を皆殺しにした。」

「黙れ!」

「いや黙らないぞ。お前らは悪党の肩簿を担いだ立派な人殺しだ!けして許される事じゃないんだよ!この世界でもお前らは必ず裁かれる」

「黙れっ!」

カズは声を上げるとその場に落ちていた魔人族の兵士の武器を広い上げアリシアを捕まえて首元に剣を突きつけた。

「涼!」

「アリシア!お前何のつもりだ!」

「五月蝿い!俺達が全て悪いって言うのか!?騙された俺達が全部悪いってのか!!自分も人殺しをしておいてか!」

「そうだ。お前だって人を殺したじゃないか!」

「しかも自分の手は使わずにですよ!貴方に僕達を責める権利はありません!」

「人質のつもりですか?」

「何?…っ!?」

アリシアはカズの身体を簡単に地面に叩きつけ自分で脱出した。

「カズ!」

「何だと?」

「貴方がたははっきり言って弱すぎます。こんな汚いやり方しないと言い返せないなんて。人としては失格ですね」

「何だと!」

「言わせておけば!」

「流石に女の子にここまで頭に来た事はないがな!」

三人はヤケクソになりその場にあった武器でアリシアを斬りにかかってきたが。

「お主ら本当に勇者だったのか?」

「偽物だろ弱すぎる」

「話にならないな」

割って入ったコハク、ルーガル、カイエンは武器も使わずに三人を返り討ちした。

「うわっ!」

「ぐわっ!」

「げはっ!」

「もう辞めて下さい。皆さん。貴方達の言い分も分かりますが私達は罪を認めて償ってやり直して欲しいだけです。」

「ふざけるな!これもバグだ!チートだ!」

「僕達を何処までコケにすれば!」

「俺達は悪くないんだ!!」

「やれやれ。一回地獄を味あわせるべきであったか」

ブラキオサンドライトはそう言うと身体が光り輝くと口から何やら術式を組み三人に吐き出した。

術式は身体に入り込むと消えた。

「オイ。何をしたんだ!」

「案ずるなお前達は死ななくした」

「は?」

「何を馬鹿言ってんだ?もし本当ならこっちとしてはありがたいな」

「血迷ったか爬虫類。わざわざ穏健を授けるとはな!」

「戯け。それは呪いだ。自ら死ねぬ呪いだ。」

ブラキオサンドライトは三人に自ら命を断てない呪いをかけた。

「皆行くぞ。これ以上馬鹿に何を言っても変わらぬ」

「俺達を逃すのか?」

「ああ何処へでも行け。だがお主達の場所はこの地には無い。自ら犯したツケでもがき苦しめ命を断ちたいと思う程の地獄がお主達を襲うだろ。その呪いはその時のお楽しみだ。」

「ああそうかよ!」

「これで自由です」

「二度と会う事はないがな!」

三人はそう言うと走り去った。

「ブラキオ…行かしていいのか?」

「ほっとけばよい…裁きを与える価値もない。ホラさっさと我をガネットへ連れて行け」

アリシアは小さくなったブラキオサンドライトを抱き上げると馬車へ向かう。

他の皆んなも馬車へ向かう。

「涼。あんな連中ほっとけばいいティラ」

「ああ」

涼は彼らに自分達がやった事の重大性をわかって欲しかった。あの年齢の子供が人殺しに加担したなんて自覚すれば恐らく凄い苦しみに見舞われるだろう。でも自覚しないと彼らはずっと変わらない。だからわかって欲しかったと願う涼だった。

だが、ブラキオの言う通り彼らには居場所は無い。世間が彼らを許さないからだ。彼らがやがて死ぬ思いをするなんてまだ誰も知らない。

「ブラキオ今のお前はやっぱり弱くなっちまったのか?」

ガネットへ向かう馬車の中で小さくなったブラキオサンドライトに尋ねる涼達。

「ハッキリ言う奴だなお主は…まあその通りだ身体の殆どを奪われたからな。」

「じゃあ、あの無敵の力はだせないと」

「残念ながらな」

マジかよ…じゃあアリシアはもう変身出来ないのか。

「アリシア。コイツを渡しておく。」

ブラキオは口から小さなアレキサンドライトの勇者石(チェンジストーン)を渡たした。

「チェンジストーンだ!」

「私また変身出来るんですか?」

「ああ、だがパワーは大幅に下がってしまったがな」

まあ力の根源がほぼ奪われたからな。恐らく俺達より少し強いくらいだろ今のアリシアの変身では。

「でも誰かを守れる力は残ってます。ありがとうございます。」

「お主のアレキサンドライトは本当に美しい輝きだ。貞と似ておる。子孫だから当たり前か」

ブラキオサンドライトはそう言うと部屋の奥へ向かう。

「どこ行くんだ?」

「我は疲れた少し休む」

「まだ聞きたい事が一杯あるんだ」

「後にしてくれ。この身体は大変なんだ」

ブラキオはそう言うと奥へ行ってしまった。

「行っちゃった」

「しかし参ったな。せっかく宝石神が見つかったのに…」

「奴らにあの力の大半が奪われたとなると」

「かなりマズイよな」

「涼?さっきから難しい顔してるな?なんか気になるのか?」

信道が尋ねる。

「ああ、あのヴァニティって奴が何で台詞を知ってたんだと思ってさ」

「台詞?」

「ああ、俺の世界の特撮。ホウキュウジャーの台詞をあの魔王が言ってたんだ。それに」

「それに?」

「思い出したんだけどよ。ヴァニティって確か…ホウキュウジャーのラスボスの名前だ。」

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