おめでとう。笑顔になれるおまじない。

@grow

第1話 想いは誰かに引き継がれる

「え?! 好きな子に興味を持たれるには何が必要かって?」

「うん、好きって言いづらい。今は恋人未満で良いから気になって欲しい」

「奥手なのか積極的なのかわからないなー、悠ちゃんは」


そう言って、小学生低学年の僕に茶化さずに助言をくれる隣の家のゆかりお姉さん。


荷物を持ってあげる、勉強を教えてあげるといった優しさを見せる。

運動ができる、力持ち、友達が多いという頼れる所を知ってもらう。

色々な事に興味を持てば、相手の好きな人と同じ話ができて楽しめる。知らない事を教えてあげられる。


「こんな感じかな。まあ、今直ぐに全部をやる必要はないよ。優しさや頼もしさは徐々に見せれば良いから。今は仲の良い話して楽しい男の子って印象を持ってもらうのが一番だと思うよ」

「優しさ、頼もしさ、楽しい。難しいなー」

「頑張ろうとして空回りしちゃったらダメだから、気楽にね」

「うん、ありがとう。ゆかりお姉さん。仲の良い男の子じゃなくて、仲の良くて一緒にいて楽しい男の子を目指すよ!」


僕の意気込みを聞いて笑顔を浮かべている。

僕の好きな人が学校にいるのだと勘違いしているゆかりお姉さん。


僕の好きな人。


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親同士の仲が良いから、小さい(今もだけど)頃からずっと一緒。

遊ぶ時も、食べる時も、偶に寝る時もあった。

可愛くて綺麗で優しくて、そんな自慢なお姉さん。


ゆかりお姉さんの助言を身体に覚えさせるために、いつも心がけるように過ごしていた。

ゆかりお姉さんに弟ではなく、優しく頼れる弟。最後は、好きになった男の子って思ってもらうように。


小学6年になると、そんな僕に告白してくるクラスメイトが出てきた。

ごめんだけど、好きな人がいるって断っている。

泣いちゃう子がいるけど、僕としては、強いなって思う。


家族愛的な「好き」なら昔から伝えてきた。ゆかりお姉さんもそれに応えてくれていたけど、恋人になっての「好き」は今でも伝えていない。


僕は12歳。ゆかりさんは22歳。

今年から社会人として働き始めている。


「疲れたー。歓迎会ってまだ社会人ルーキーの私には精神的ダメージが強いよぅ」

「お疲れ様。何か飲む? 好きなオレンジジュースか、温まるお茶か、甘いココアが用意出来るけど」

「悠介は相変わらず優しいね。こういう時にさらっと行動できるのは凄いよ。しかも、私の事を考えてくれてるし。さすが、モテる男は違うねー」

「告白される事はあるけど、本命からは告白されてないから意味ないよ」

「ヘタレー。でも、もう中学生なんだから、悠介から告白すれば? 学校でも今みたいな優しい所を見せてるなら、興味持ってると思うよ。話はしてるんでしょ?」

「(中学生のガキじゃまだ無理だよ)会話は会う度にしてるよ。気まずくなったこともないしね」

「それなら告白しちゃいなよ。簡単にOK貰えると思うよ」

「他人事だと思って言ってない? 昔と違って今は近くにいる時も心臓ばくばくしてるのを隠してるのに、告白なんて」


笑いながら謝るゆかりさん。

言葉で表すと恥ずかしくなって顔を背ける。

そんな悠介を見て微笑むゆかり。


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高校に入学し、GWが過ぎた時ゆかりさんから相談事をされた。


同期の男性と付き合っている。

この前のGWの社員旅行で結婚してほしい、と言われた。

嬉しいけど、不安で。

まだ家族には伝えていない。

どうしたら良いだろうか。


まさに青天の霹靂。

恋人がいるなんて、そんな様子全く見えなかった。しかも、結婚話が出るほど仲が良いのだとわかる。


悠介が恋愛対象として見ているとは思っていないから相談しているんだろう。

ゆかりとしては、(おそらく)初めての事なので驚きや不安でいっぱいなんだろう。

でも、悠介もゆかりの言葉を聞き平静ではいられなかった。


「そんなこと俺が分かるわけないだろ! 友達やおばさんおじさんに相談してよ。俺みたいなガキに話しても何の意味もない」

「え、ちょっとまって。悠介!」


ゆかりから逃げて自室に閉じこもる。

不安、と言っていたけど、あんな笑顔、初めて見た。


バカだ。

今までチャンスはあったはずだ。でも居心地の良さから動かなかった自分が悪い。

嫉妬だ。

見たことのないゆかりの相手。ゆかりの笑顔が悠介以外に向けられるのが気に食わない。


その日から悠介はゆかりと会わない様にした。偶然出会ってしまっても、邪険にはせずに、挨拶したら部活が、勉強が、と言い訳をして、話したそうなゆかりから遠ざかった。


こんなにゆかりと会話をしないなんてお互いの受験の時以来だろうか。

話したい。何を話せば? 彼氏について?

笑顔を見たい。どうやって? 悠介自身が笑顔になれない状況なのに。


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ゆかりと会話がなくなって約半年。

親から、出かけるから制服を着て降りて来いと起こされた。

どこに行くのか、何をしに行くのか説明のないまま車に乗り出かける。

法事でもあったか? と一人疑問符を浮かべる。


車が目的地に着いた。

車から降りて周囲を見渡すと、今日がどういう日なのか理解して逃げ出そうと走り出す。

けれど、すぐに父親に止められた。


「今まで悠介がゆかりちゃんから逃げていた理由は分かる。お前はゆかりちゃんに凄く懐いていたからな。でも、今日を逃せばもう会えないかもしれないぞ。別に遠くに行くわけではないけど、祝いの日に会わないとその後にどんな理由で会うつもりだ?」


何も言い返せなかった。

可能性は低いけど、式が始まるまでゆかりに見つからない様に隠れながら会場に向かう。


ゆかりの友人、会社関連の人達。

新郎側の友人達。

悠介達も仲は良いけれど家族ではないので同じ様なところに座る。


式の始まる時間が来て新郎新婦が入場してきた。

久々に見るゆかりはとても綺麗だった。けれど、どこか笑顔がいつもと違う。

新郎の方は、逞しくはなさそうだが、優しそうな風貌だ。

悠介はゆかりと合わせる顔を持てず、一度見ただけでその後は下を向き続けた。


式が順当に進み新郎新婦、それぞれのお礼の言葉が会場に流れる。


「お父さんお母さん、今までありがとう。色々無茶してた私を止めるのはとても大変だったと思う。そんな苦労をかけて、包み込む様に育ててくれてありがとう。新しい家族を作って、二人からもらった愛情を注ぎたいと思います。おじさんもおばさんもありがとう。小さい頃から両親と同じ様に接してくれて嬉しかったです。

そして、悠介。いきなり、呼び出されて困惑したよね。ごめんね。でも、今日は会いたかったな。悠介は私にとって本当の弟の様だから。今日会わないとダメだと思ったから。悠介。今までありがとうね。これからも私の弟として仲良くして欲しい」


ゆかりの言葉が終わり、もう、恋人にはなれない。なら、超シスコンの弟となろうと決意した。

椅子から立ち上がり、周りの目線なんて無視してゆかりだけを見ながら告げる。


「当たり前だ。俺は生まれた時から今も、これからもずっとゆかりさんの弟だ。自分のせいだけど、会えなくて寂しかった悲しかった。ゆかり姉さん。結婚おめでとう。

今日の姉さんはいつも以上に、そして誰よりも綺麗だよ。だから、いつもの笑顔を見せて。姉さんの笑顔はみんなを笑顔にできるんだから」


悠介のおめでとう、でやっと張り付いていた笑顔がなくなったゆかり。

皆に祝福されながら結婚式は終わる。


家に戻り部屋で静かに泣く。


「ゆかり姉さん、おめでとう」

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