第3話 覚醒
白く大きな満月とその横の赤い小さな満月が雲一つない夜空を彩り、その月明りに照らされた祭壇には色とりどりの果物や木の実、鳥や兎などの森の恵みが供えられている。 キトーン式古代ギリシア風の巫女服を着た少女が跪き祈りを捧げる横で、少女と同じような巫女服を着た2人の女性が歌うように祝詞をあげていた。
祝詞が半ばに差し掛かると少女…ミーアが立ち上がり舞が始まる。 すると辺りがざわめきだし、小さな光が無数に現れミーアを包みだした。 舞に合わせて髪や衣服がふわりふわりと揺れ動き、その度にキラキラと光が舞い、ブレスレットとアンクレットに着けられた沢山の小さな鈴はその度にシャランシャランと鳴った。
それはとてもこの世のモノとは思えぬような幻想的な光景だった。
舞が終わりに近づき、ミーアが両手を高く掲げると、集まった光が一斉に上空へ上がり、再びミーアへと向かうと体全体が白い光に包まれ、そして吸い込まれるように光が消えていく。
一瞬の静寂。
誰からともなく「おめでとう!」と言葉をかけられ、ミーアはほっと一息ついた。
大勢の村人の中にフィアナの姿を見つけ、近づこうとミーアが動き出したその時、消えかかった光が耳元をかすめる。
『もうすぐよ』
そう言われた気がした。
祭壇から少し離れた場所に篝火にぐるりと囲まれた宴会場があり、夜も更けるとお酒も入りだいぶ出来上がった大人達が楽し気に騒ぎ出だす。 「いや~~去年のフィアナも良かったけど、今年はそれ以上に綺麗だったなぁ!」「あんた、毎年同じこと言ってるじゃない。」「ちげえねえ!」
大騒ぎする大人達を後目に、もうおなか一杯食べて満足した2人はこの場を離れることにした。
宴会場が少し遠目に見える場所で二人は並んで腰を下ろすと、ミーアが覚えたての魔法を使って灯りをともす。
『光よ、我が身を照らし給う。』と唱えるとミーアの目が青く光り、ぽおっと丸い光が浮かんだ。
「…どお?魔法を授かってどんな感じ?」
問われたミーアはじっと自分の両手を見る。
「うーん…まだよくわからない…けど、確かに『何か足りなかった暖かいもの』が光と一緒に私の体の中に入ってきたのは感じた。」
すると嬉しそうにフィアナが同意する。
「うん、そうそう。私も同じように感じたよ。」
「それと…」
「うん?」
「精霊様…なのかな…最後に光が消えるときに何か言われた気がするんだよね。」
「へえ…なんて言われたんだろう?」
ミーアは頬に手を当て考える。
「確か…『もうすぐ』だって言われた気がする。」
「あれ、なんだろう聞き覚えがあるような…なんだっけな…もうすぐ…もうすぐ…?」
突然ハッと顔を上げるフィアナ。
「思い出した!確か一昨日見た夢で聞いたんだ。」
「へえ~。どんな夢だったの?」
「えーと…気が付いたら白い場所にいて、声だけ聞こえて来たんだ。『もうすぐだ』って笑いながら。その後は最近よく見る夢に変わったんだよね。見たことが無い場所のはずなのに何か懐かしいような…後は音楽が聞こえて来た。こんな感じの」
♪♪~~♪~~
――――― その時ミーアの中で何かが壊れるような音がした。
夢で見た音楽をハミングしていると、急に静になったミーアの顔を覗き込んでぎょっとした。
つうっと一筋の涙がミーアの頬を濡らしていたのだ。
「……もしかして…」
「しっ…てる…」
「え?」
「その歌…私知ってる…」
涙を流し、わずかに震えながらミーアが歌い出した。
~♪新しい未来への道~…♪
その瞬間フィアナの頭の中が白くはじけ、そのまま頭を抱え蹲ってしまう。
まるで紙芝居のように次々と再生する映像を思・い・出・し・た・のだ。
頭を抱えうつむいたままフィアナはその続きを歌ってみせた。
~♪支えあう旅はまるで 時計の針たちのようなキセキ~‥‥♪
「……ああ、やっぱり…ねーね…?」
「ミア……私たち……」
「あぁ‥‥そんな…うっうう…ぅあああああぁ!」
お互いに抱き合い号泣していたが、暫らくすると落ち着いたのか、今・迄・の・事・を語りだした。
「…やっぱり原因はあれだよね。」
「うん」
「あの高速道路で死んじゃったんだね私達。」
「そうだね…」
「ごめんよ…難波に行こうなんて私が言ったから…せめて電車移動にするべきだったんだ!くそっ!」
「違うよ!ねーねの…フィーのせいじゃないよ。それに気兼ねなく話ができるし、私も車でよかったよ。」
悔しがるフィアナをあわててミーアが宥める。
「はぁ……」とため息をついた後、押し黙ってしまったフィアナをしばらく見守る事にした。
すると落ち込んで俯いていたはずのフィアナが突然肩を揺らしだす。
「…つーかさ、ぷっ…ふふふっ。 死んだら魔法のある異世界に生まれ変わりました~っとかどんなラノベだよっていうね! あははっ」
吹っ切れたように笑いだすフィアナに「切り替え早くない…?」とあきれ顔をするミーア。
「だってさ、済んだことはもうどうしようもないし。それに…」
フィアナの目が青く光ると手のひらに火の玉が現れた。
「こんな事もできるしね。悔んだり悩むより今を楽しまないと!」
と言ってニカッと笑った。
(まったくフィーらしい…今も昔も変わらないね)
その変わらないところを諦めもし、同時にひどく安堵した。
「さてと…」と言いながらフィアナが立ち上がり、ミーアの顔を指さす。
「今日の主役がひどい顔だよ。もう家に帰ってゆっくり休もう?」
言われたミーアもむっとして言い返す。
「あら、フィーだって同じような顔じゃない。目が腫れて半分つぶれてるよ。」
お互いに「むー…」と顔を見合わせていると、堪えきれず同時に「ぷっ」と噴出した。
「それじゃ」
「うん」
「また明日!おやすみ!」
「うん、おやすみなさい。」
歩き出した後、ふとミーアが立ち止まる。
「あ…フィー。」
「ん、なに?」
「この世界でも一緒でよかった。」
そう言って花がほころぶように笑うミーアを見てフィアナも微笑む。
「うん」
そう言って二人は家路についた。
――――――― 翌朝早く、眠りは村人の叫び声で破られる。
「みんな逃げろ!!王都の奴らにここがばれた!!兵士が大勢やってくるぞ!早く逃げるんだ!!!」
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