精霊のカプリース

紗衣羅

第1話 プロローグ

ぬけるような(人工の、しかし本物リアルと寸分違わない)青空の下



所謂初期村と呼ばれる、ゲーム初心者がチュートリアルを終えた後


最初に飛ばされるスタート地点である街、その中央にある大きな噴水広場で


二人の少女が楽し気に準備を始めていた。





 VRMMORPG「One Another Dimension -幽国のオラトリオ-」(通称OAD)


まるで異世界に転生したような高い自由度で今最も人気のゲームである。


二人は(準廃寄りの)中堅プレイヤーだが


のんびりと初心者にお節介を焼いたり、音楽活動ストリートライブをやったり


時にはレアアイテムを求めてレイドに参加したりと大いにゲームを楽しんでいた。





「ふっふーん 今日から学生は夏休みだからね、きっと今から始める


初心者さんもたくさんいるはず!」


「そうだねぇ~何とか準備間に合ったねぇ~さすが、ねーね」





ねーねと呼ばれた少女は一瞬目を見開いた後


やれやれと言った風に肩をすくめてみせた。





「いやいや…ミアのがすごいからね!日程決めただけの私より


 ミアが新曲間に合わたって方がすごいからね!」





やいのやいのと言いながら準備が終わり、ミアはキーボードを起動させた。


透明ボディでミアのウエストのあたりに浮いてるソレはキーを押す度に


音符型のシャボン玉が現れては空へ飛んで消えていく。


ミアが苦労して手に入れたレア素材で作ったお気に入りである。





「は~…起動させたところ初めて見たけど綺麗だねぇ」





”ねーね”ことナツミは興味深そうにシャボン玉をつついている。


お気に入りを褒められたミアがふにゃっと笑った。


(うむ、可愛いぞこのやろう)





辺りを見渡すときょろきょろと周りを見渡している初心者ビギナーっぽい人や


なんとなく見知った顔がパラパラと集まってきた。


そろそろ頃合いかとナツミはミアに合図を送る。





「おっし、それじゃいきますか相棒!」


「おーー!」





 ―――― すーはーすーはー…





ナツミは深呼吸で緊張をほぐすと


(ゲーム内で効果があるかは分からないが)


音声拡張の風魔法を使い、少し遠くでも聞こえるように調整すると


広場にいる人々に呼びかけた。





「ちゅーもーく はいっちゅーもーーーく! えー…ごほんっ


顔見知りの人はこんにちは!初めての人は初めまして!ようこそOADへ!


今から私と隣にいる私の相棒とでゲリラライブやります


良かったら聞いていってねー!新曲だよっ!」





ミアとナツミは顔を見合わせ頷き合うと音が鳴り出す。








♪~~♪♪~~








 君がくれた優しい言葉





沈んだ心も癒されて笑顔を返す





そんな思い出のはじまりは遥か遠くて





懐かしい色に記憶が染まる








新しい未来への道





支えあう旅はまるで





時計の針たちのようなキセキ








たとえ追いつけなくて





見失いそうになっても





つながる心が支えてくれる





大丈夫。きっと希望が





見えてくからと








青い夜空に咲いた星を見上げ





オレンジの風に背中をおされる





白いじゅうたんを歩き





たどり着いた緑の楽園で君と笑う





そんな思い出たちを





五線紙に乗せて





奏でるふたりのカプリース





目の前に広がる星空





闇を眩しく照らす太陽と





大地を静かに照らす月





ふたつの物語が





このままずっと続きますように








やがて壊れ行く時計





針は動かなくなても





心は願いキセキを信じる





散りばめられた思いを集め





いつか必ず伝えたい








「ありがとう」と








♪♪~~~♪~~











歌が終わるとどこからともなく拍手が起こり


ミアたちは満面の笑みを浮かべながら挨拶をする。





「聞いてくれてありがとうー! また時々やるので


気が向いたら聞きに来てくださいね、それじゃ良い旅を!」





観客ギャラリーも去り、二人きりになったところで


噴水の縁に腰を下ろし一息ついた。





「「おつかれ~~!」」





「はぁ~、なんとか終わったねぇ~」


突っ伏しながらミアが呟くと


「ま、とりあえず…及第点かな?」


ナツミが頬杖をつきながらニヤリと笑う。





「それじゃー…打上げといきますかっ」


「おー どこに行く?」


「それなんだけどさ、これから行ってもいいんだけど…週末暇?」


「週末…大丈夫…だったと思う」


「じゃあリアルで打上げ会しよう~!」





リアルで打上げと言っても二人の住まいは大阪と東京


会うとしてもすぐにとはいかない。


結果言い出しっぺのナツミが飛行機で大阪に行くことになった。





「それじゃ、関空にお迎えよろしくねー 難波行こうぜ、難波!


車は私が借りるから道案内よろしくねぇ」











 約束の週末にナツミは関西国際空港の


国内線到着出口付近のカフェでミアを待っていた。


そろそろ手持ちのソイラテが無くなりそうになる頃


待ち人のミアが両手を合わせ、申訳なさげに声をかけてきた。





「ごめん!おまたせねーね!」


「大丈夫、そんなに待ってないよ。」





ナツミは笑いながらひらひらと手を振り


残りのソイラテをぐいっと一気に飲み干すと


荷物を持ち立ち上がる。





「そんじゃ行きますか! れっつどらーいびーん!」


「おーー」





空港をでてレンタカーを借りた後、二人は高速に乗って一路難波を目指す。


時刻は夕刻をすぎており、辺りは次第に暗くなっていった。


ナツミは難波で一泊するので夜通し二人だけの女子会をする予定だ。


車内ではこれから行く店や料理の事などで盛り上がっていた。





――― すると前方からあり得ないはずの眩しい光が見えて来た。





(えっ…ヘッドライト…? もしや逆走!?  ああ…もう間に合わない……!)





「…っミア!ふせ…!!」




















 ――――――  そこで二人の意識は途絶えた。 ――――――








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