妖星観測局

星空の鍵

本編

そうあれかし、そして世界は「観測」された

 いつ頃からあったのだろうか、何故あるのだろうか。それらを論ずることに意味は無いし、辿り着く場所もきっと無い。ただある瞬間から「観測」され始め、そして俺は「記録」の上にあった。観測局局長、星杜ほしもり鳳弥おび。自らを証明する唯一の記録。これが俺だという確証も、また、ない。

 「妖星観測局ようせいかんそくきょく」。いつか、どこかの世界で生まれ、数多の並行宇宙を観測する施設。彼方の星の動きを紐解き、それを凶事の前兆として解釈する場所。そこに俺はいる。この施設の使い方を、自らとの同調の仕方を、ただそういうものとして知っていた。

 俺の目は宇宙を映す。自らの意思で映す位置を変えることができるが、直接の観測は不可能。日によって輝き方を変え、覗き込んだ底が知れることは無い。時折、この目の能力か、たまたま覗き込んだ何処かの惑星の所為なのか、いくつかの宇宙に連なる知識が流れ込む事もある。厄介な事この上ない代物だ。

 そして、俺と同調したこの施設は、全く異なる機能を有して運用されている。巨大な望遠鏡から無数のモニターに映される宇宙は、俺の目に映るものと同一となる。広大な宇宙から文明を持つ惑星を映し出し、それを「観測」し「記録」する。「観測されないものは存在しない」という定義から、逆説的に「観測されたものは存在する」という定理を導き出し、「記録」によって確定させる。当然観測者は存在するわけで、だからこそ観測局はその世界に少なくとも定義の上では存在しなければならない。そうやって世界との経路パスを結んでいく。世界を渡り歩くのは、ささやかな楽しみの1つだ。

 ところで、観測局自体の存在定義は現代日本に引き摺られているらしく、俺自身の知識や倫理もそこに帰依している。現代日本の記憶は何れにおいても実にぼんやりとして断片的な物で、行き来は可能だが殆ど意味が無い。

 観測局の運用を初めてから、どれほど年月が経ったかもう忘れた。それぞれの世界で交流はあるが、帰る場所に人が欲しいなとも最近は思う。どこかしらで仕入れた謎の毛皮の柔らかなソファーに寝転ぶと、日が落ちて闇に沈んでゆく観測室の天井にちらちらと瞳の星が輝いて、やがて見えなくなった。

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