まばゆい光(俳優を目指す若者から見えた光と影を覆う)
このコンビニのレジから見える景色は、近い方から順番に、駐車場、隣接する片側一車線の道路、防風林、砂浜、そして、海……。
私は、数年間、ここで店長をしていた。
海水浴場が目の前にあった店だった。
従業員は私以外、全員、アルバイトで、大学生と高校生が8割を占めていた。
そのほとんどが私が雇った子だった。
なぜか、イケメンと可愛い子の集まりだった。
その中の1人、高校3年生の男の子が、ある日突然、「辞めたい」と言ってきた。
理由を聞くと、なんと、俳優になるために東京で暮らすのだと言う。
学校も中退して親も説得したと言うのだから、さすがに驚いた。
まさか、こんな大胆な行動をとる子だったとは……。
私の18歳のときと極めて行動が似ているから、なんか変な気持ちだった。
当時、私は、名古屋で放送されていた番組の企画オーディションに参加したのを皮切りに、彼がこれからやろうとしていることを実際にやっていた。
彼は私の過去を知らないし、そもそも興味もないだろう。
私は自分の身の上話は、誰にもしていないし……。
今は、ただのコンビニの社員でしかないからね。
素知らぬふりをして聞いていたが、本気で成功してほしいと思った。
同時に……、精神的にダメージを負った。
正直、あまり良い思い出はなかったから……。
ある夏の日の夕方……、私がレジから外を見ると、この店のアルバイト男女8人が、駐車場に居た。
理由を聞くと、彼のお別れ会を海でBBQをしながらやったのだと言う。
その流れで、彼らはコンビニの駐車場まで歩いてきたらしい。
夏の夕日を浴びながら、満面の笑みを浮かべ、歓声を上げて話し込んでいた。
1時間近く、話し込んでいたと思う。
私はその様子をレジから眺めていると、まるで、まばゆい光に包まれるかのように、失った人生の儚さが投影されて、存在感が薄れていった。
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