貫禄

普通に生きていたら、ヤクザの親分やマフィアのボスと話す機会なんかない。

だけど、私はある。

逮捕されてから起訴されるまでの間、何度か、会話をしたことがある。

ヤクザ組(入れ墨がある人)とカタギ組(入れ墨が無い人)で部屋を分けられてしまうので同部屋になることはなかったけど……。


体操の時間に話す機会があったので、会話をした。

長く居ると、次々とやってくる新顔と出くわす。

そこにコワモテでガッチリとした体格、私よりも10歳から20歳年上、威圧感が半端ない親分級の人間が現れた。

明らかに年下の私に、物腰の柔らかい態度、丁寧な敬語を駆使した言葉づかい、丁寧すぎるほどの挨拶……。

貫禄が半端じゃなかった。


ここまで貫禄をつけるには、持って生まれた性格と育った環境に甘えがなく、反骨精神と成功欲が良い比率でブレンドできていて、運命に裏付けられた処世術を持っているはず……。

私は入れ墨・タトゥーはないけど、身体中が傷だらけなので、やっぱりここでも目立つ。

それを、この人がどう捉えたかは知らないけど……。

長く話をしてもボロが出ないレベルなので、これはホンモノだと思った。

こういう人は、500人以上の女をイカしまくって吹かせてきただろうし、組織の中で人の上に立つという経験、人を動かす経験、人の矢面に立つ経験など、いろいろと積んでいると思った。


正直、こういう人間に生まれたかった……。


私は、いつも精一杯だし、中身が空っぽで、余裕なんて一欠けらもなく、自分を大きく見せているだけなので、こういう人と会話すると自分の薄っぺらさが如実に表れて嫌になる。

どういう容疑で捕まったのかは知らないけど、取調べの警察官とは激しくやり合っているようだった。

話を聞いていると、どうも、国策捜査的な感じで捕まっているようだった。

ひょっとしたら、そっちの業界では有名な人なのかもしれないね。

厳しい裏社会で成功する人は、当然、表社会でも成功すると思う。

そういうのは、話をしているだけでわかる。

私は、どっちもダメだから、本当にゴミだと思う。


これくらいの貫禄がほしい……。


まぁ、生まれる前からやり直さないと無理だけど……。

このままだと、一生、自己嫌悪と付き合わないといけない。

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