髪を切る
散髪は、あの日以来、自分でするようになった。
自殺を図る少し前から、全ての人間関係が嫌になった。
生きるのに疲れ果てた。
散髪をするために店にいくと、美容師と2人きりの空間になる。
それが嫌で行かなくなった。
もう、死ぬまで行くことはないだろう。
私の1回きりの人生とは何だったのか?
家族なし、友人なし、恋人なし、結婚なし、子供なしで終わってしまった。
この世に、会話の相手とメールの相手はいない。
この30年間、仕事と拘禁施設以外で誰かと過ごしたり会話したりした時間の合計、全部足しても24時間いかない。
この10年に至っては、それが1秒も更新されていない。
もう死ぬまで、更新されることはないだろう。
異性関係の可能性がゼロになった時点で、身だしなみや服装なんてどうでもよくなった。
散髪を自分でやると言っている時点で、もう、相手にされることはないと思う。
自分でやるには坊主が一番楽だけど、ここは刑務所じゃないしね。
ハサミとバリカンを使って、それなりに……。
近くで見たら、人生終わってる感、丸出しだ。
若い頃、自分で自分の髪を切っている独身のオッサンを近くで見たことがあるけど、まさか、自分がそうなるとはね……。
これで、若い頃、モデル事務所に所属していたというのだから、笑えてくる。
そういえば、まだ恋活・婚活を死ぬ気でやっていた頃、初対面ではなく2回目に会った女が、最初に会ったときと髪型が違っていたことがあって、あえて指摘せずに無視していたら、何か態度がおかしくなったね。
まぁ、あの女からしてみれば『こんなことにも気づかないゴミ男』とでも思ったのだろう。
私からしたら、今どき髪型を変えたくらいで、いちいち指摘するか……、昭和じゃあるまいし……という感じだった。
まぁ、誰でも人間の評価基準みたいなものはあるのだから、仕方ないだろう。
私も、親と繋がっている女、子供と繋がっている女、路上生活やムショ暮らしが理解できない女、駆け落ちができない女は、それがわかった瞬間に切るから、一緒か……。
洗面台の鏡だけを頼りに、ハサミとバリカンで自分の髪を切る。
床や洗面台に髪が散らばる。
もっとも虚しいのは、まるで砂をかき集めるかのように、床に落ちた髪をかき集めているときだ。
随分と白い髪が増えたなって……、悲しくなる。
1度も恋愛していないうちに、こんな風になってしまうなんて……、虚しくなる。
私の人生は、あとどれくらいだ?
骨以外では、髪くらいかな?生きた証が、長い期間、残るのって……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。