鐘が鳴る

部屋の中で、鳴り響く鐘の音を聞いている。

ここは比較的安い賃貸物件である。

いわゆる、ボロアパートという奴だ。

もちろん、一人暮らしだよ。

まぁ、時代の流れとともに、周りの景色は変わっていく。

どんな建物が建とうが無くなろうが、驚かない。


ただ……。

近くに、結婚式にしか使えないそれ限定の建物を建てられるとはね。

しかも、とても豪華だ。

これに関しては驚いたね。

まさか、こんな訳のわからない建物を建てて、これだけで利益を出そうというのだから、提供する側も利用する側も、日本人って、恵まれた環境で生きている人が、まだまだたくさんいるってことだね。


部屋の窓からは、2人の幸せそうな姿は見えない。

近くと言っても、実際には、かなり離れている。

ただ、鐘の音は聞こえてくる。

ウエディングベルの音がね。

この音を、居住している部屋の中で1人で聞いていると……、運命とは何か?と、いろいろ考えてしまう。

私は、家族なし、友人なし、恋人なし、結婚なし、子供なしで1回きりの人生を終えている。

この世に、会話の相手とメールの相手はいない。

奴らのような人生を送れなかった無念と悔しさ……、そういう深い傷に、一方的に塩を塗られているような感じだ。


私は、それを強く望んだのに……、どんな行動を起こしても、全財産を使っても、命を懸けても、誰とも出会えなかった。

たった1回のデートすらできずに、1回きりの人生が終わった。

その一方で、いろんな人に祝福されて、結婚式を挙げている人がいる。

ちょっと、信じられないね。


この鐘……、土日祝日は、1日中、鳴りまくっているね。

先々週も、先週も……、そして、今週も。

世の中には、生まれる前に決まってしまうことがたくさんありすぎる。

無念と悔しさしか出てこないね。

同じ1回きりの人生なのに……。


私は、部屋の中で独り……。

今、鐘が鳴っている。

精神を抉りとられる勢いだ。

そこに参列している奴ら……、当事者も含めて、皆殺しにしてやりたい。

ああ……、自分以外の誰かに生まれていたら……。

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