エーデルシュタインの罰

藍谷紬

第1話「人間の語り手。」

俺の名前は恭二・クノッヘンハウアー。


俺の嫁は吸血鬼だ。




吸血鬼と言っても、漫画やアニメで仰々しく高笑いをするような純粋な吸血鬼とはずいぶん違う。

どこが違っているかと言えば、、、



「ねぇ!ちょっと恭ちゃん!?昨日頼んでおいた醤油、買ってきてくれた!?」


「・・・・」


余りにも人間らしい所だ。




現在俺は彼女の父親の持ち家である"城"に住んでいる、が、余りにも広い為、実際に生活に使用しているのはほんの一部に過ぎない。


現に今彼女が大声を出しているのは俺の部屋から少し離れたキッチンだ。


部屋の説明は、まぁいいだろう。


「ああ、いや、ごめん。忘れてたよ、、。」


サンダルを履いて頭を掻きながらキッチンに来た俺を見て、


「こないだもティッシュ頼んで忘れたわよね?その忘れやすいのどーにかしてよ?」


と少しばかりあきれ顔を見せてそう言った。


彼女の名前はナターリエ・クノッヘンハウアー、ドイツの方の名前らしい。俺の名前の語呂がやけに悪いのは主にその苗字のせいである。


「ごめんごめん、そうだナターリエ、何か手伝うよ。夕飯は何?」


「・・・・チャーハン。」


少しばかり不機嫌になってはいるがどうしようもないほどに怒ってるというわけでは無かった。




こうして平和に暮らすことが出来ているが、何の障害も無い訳ではない。


少し詳しく話すと、ナターリエの吸血鬼としての血は限りなく薄まっているのだ。吸血鬼が恐れられる存在の座から転落した近代戦争の時代以降、人間との混血が続き、何十世代も経て、ほぼ人間に近いものになっている。


しかし、吸血鬼としてのある儀式が彼女の家系には存在している。


"血のエーデルシュタイン"という石が存在する。


エーデルシュタインとはドイツ語で宝石、とかそういう意味らしいが、つまりは"血の宝石"だ。


これは代々引き継がれてきた宝石であり、彼女を永遠に縛るものでもある。


クノッヘンハウアー家の先祖に当たる人物が、吸血鬼としての子孫の繁栄を願い、吸血鬼としての力や、意志を特別な宝石に込め、代々受け継がせてきたらしい。


年に一度、この宝石に自らの血と配偶者の血を捧げ、自分は子孫の吸血鬼であるという証明をしなくてはいけないのだが、この儀式を儀式を怠ると恐ろしいことが起きる。

遡ること100年程、クノッヘンハウアーの分家の夫婦が手間を嫌って、やめてしまったのだが、その数日後から吸血鬼である夫の様子が変貌した。


暴力的になり、牙や爪が伸び始め、水の代わりに血を要求しだし、最後は暴走し、そのまま妻と共に死んでしまった。既に吸血鬼としての血が薄まり、力は衰え、性格も身体も限りなく人間に近づいているのにもかかわらず、宝石に記憶された吸血鬼は、昔の吸血鬼としての性質に引き戻されてしまうのだ。




『吸血鬼は永久に誇り高き吸血鬼であれ。』




先祖の思いが、様々なものが変わってしまった現代に生きる吸血鬼を縛ってしまった、ということになる。吸血鬼の家に生まれたものは全員すぐにこの宝石に血を捧げられ、宝石に記憶される。

一度宝石に血を捧げたものは、一生、吸血鬼の呪縛から逃れることは出来ない。


配偶者の話をしよう。


吸血鬼が純血として存在できた時代では、血を捧げる夫婦どちらもが吸血鬼であったために、儀式を怠った場合はどちらも暴走してしまうことになるが、これが吸血鬼ではない、人間だとどうなるのか。


前例が少なすぎるために推測に近いのだが、伝え聞く話では体の中の血が逆流するだの、皮膚から血が噴き出すだの、血を飲みたくなるだの、挙句の果てには羽が生えるとか。この世の物とは思えないほどの地獄の苦しみを味わって死ぬことになり、呪われ続ける、という噂まであるほどだ。


確かに恐ろしい話だ、これが自分だったら、なんて考えて震える人ももしかしたらいるかもしれないね。


でも俺は別に構わない。


確かに血を捧げる時の量はその辺の点滴よりは大分多いし、忘れたらとんでもないことになるのだが、忘れようもないほどにナターリエの父上、母上、祖父、曾祖母などが脂ぎった目を鈍く光らせ、年の初めに絶対招集をかけるのだから、忘れようもない。


それにこの血のエーデルシュタインには、不思議な力がある。


それは、血を捧げる儀式の際に対価を捧げれば






ひとつだけ願いを"聞いて"くれるからだ。


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