Episode.9
作戦会議中
「とりあえず、電波ジャック作戦は成功ね」
金髪の毛先を桃色に染めた碧眼の少女は、中央アリステラ市内の地図を眺めながらそう言った。
今、彼女─カミラ・レミリットのいる広間には、黒髪を青いリボンのヘアゴムで雑に結んでいる男と、可愛らしい衣装を身につけた茶髪の少女、そして美しいプロポーションを惜しみなく曝け出すような恰好をした女の三人が座っている。
「こちら側の被害としては、ハカナが右手首を骨折。セレンが全身打撲程度といった具合ね」
美しい身体の女―ヴィヴィット・カルトは、足を組み直しながらそう言った。カミラは暗い顔になったが、すぐに顔色を元に戻して地図に目を落とした。
ハカナは今、手首を固定した状態で簡単に身体を動かしたり家事をしたりしており、セレンは身体を起こす事は出来るが上手く動けないらしくベットでのんびりしている。
「...今、エルリックの再指名手配とカミラの指名手配がされてるわ。あたしが街に出た時に手配書貼ってたから」
「ふぅん...。ま、別に〈大監獄〉前とは変わんねぇし」
黒髪を結んでいる男―エルリックは特に気にした様子はなく、頭の後ろに手を置いてぐっと椅子の背もたれにもたれかかった。
「とにかく、次にどういう手を打つか、ね...。本拠地に乗り込むか、周りから攻め落とすか」
カミラはゴードンの居る市長邸、レッドがいるとされているアンドロイド工場本部、そして彼らの息がかかっているであろうと推測される場所に赤いマル印を付けていく。
「周りから落とす、っつってもなぁ。こんなに数有ったら、きりがねぇだろ」
「でも、本拠地を攻めている時に周りからやられたらひとたまりもないわけだし」
茶髪の少女の容姿に見えるアンドロイド―イレブンは、ただ顎に手を当てて地図を見ている。それからカミラの方へ顔を向けた。
「今、キナン達は?」
「遊びに行くって。三人共仲良しよねー、喧嘩しないのかしら?」
ヴィヴィットはくすくすと口元に手を当てて微笑む。イレブンは首を捻った。このような状況下において、彼らが「遊びに行く」という人間だろうか、と。大人びた感情を持つ子達ではあるものの、きちんと節度を持った行動をする人である。
少しの違和感を持ちつつも、そこまで深くイレブンは口を突っ込まなかった。
「......ハカナとセレンがある程度回復するまで、待ちましょう。それが多分一番打開策を考える近道だと思うわ」
カミラは簡単に結論を出して、ヴィヴィットが淹れた紅茶に口を付けた。
とある大きな一室のベット近くで、二人の男が居た。
「僕、これくらい自分で出来るよ。むしろ、ハカナの方が難しいでしょ?片手――しかも利き手が使えないわけだし」
「問題ねぇッスよ。基本的には右ばっかり使ってるッスけど、両利きに近いッスから」
夜空色の瞳の男―ハカナ・フィラデルドは、ベットに上半身だけ起こした状態の黒髪の青年―セレン・アーディットの腕の痣を冷やしたり温めたりとしていた。
セレンが機転を利かせ、自らが投げ飛ばされる事によって活路を見出した。その代償が全身打撲である。
「にしても...器用過ぎだよ...」
セレンは目の前に広がっている光景を見ながら、ぼそりと呟いた。
ハカナは湿布をセレンの特に腫れや痣の酷いところにテキパキと貼っていき、その前には林檎の皮剥きをしていた。折れている片手に林檎を乗せて、くるくると皮を剥いていた。
「普通ッスよ?」
「カミラ嬢がどれほど手のかかるお嬢様か、想像付いちゃうなぁ...」
セレンは苦笑いを浮かべながら、八等分に切られた林檎を一口食べた。シャキシャキとした歯ごたえに、思わずセレンは目を閉じてそれを楽しむ。
「あー...ハカナ、食べる?」
「俺、今両手塞がってんスけど」
「僕、ちょー優しいから、食べさせてもいいけど?」
ニヤニヤと笑って、新しい林檎をハカナに咥えさせる。それをハカナは咥えて、もぐもぐと食べて行く。その間、一切手当ての手は止まっていない。その器用さにはセレンも感服だ。
彼はもぐもぐと口を動かしながら、それから少し考えて口が空っぽになってからハカナを見下ろした。
「ね、カミラ嬢達は?作戦会議?」
「そッスね、ま、大方これからの話ッスよ」
これから。
ゴードンは電波ジャックを行なった反逆者達を探すべく、市内の警備を固めている。カミラとエルリックは勿論の事、監視カメラに写っていたであろうヴィヴィット、イレブン、ハカナ、セレンらは追われている。目に見えた指名手配という形を取られているのは、カミラとエルリックの二名だけであるが、他全員も捕まる事は目に見えて分かる。
唯一自由に動けるのは、被害者という体になっているキナン、フラウ、シャルティエの三名だけだ。しかし、彼らもカジノのクラウン・ド・ティアラの監視カメラに映っている可能性も否定できないので、全員あまり外に出ないようにしている。
「あれ?そう言えば、見かけてない気がするなぁ、キナンくん達...」
「あぁ。なんか、お出かけだそッスよ?遊びに行くのかもしれないッスけど」
「ふーん...........。今の状況分かってる上で遊ぶのか..、凄いなぁ」
感心とも呆れとも取れる声で、セレンは顎を撫でながら呟く。ハカナは間髪入れずに動かさない、と喝を入れる。
確かに一番外出しても問題ないメンバーではあるものの、
「......さぁてと、どうなっていくのかなぁ」
ハカナに怒られてすぐに手を止め、ベット横の窓から見える青空を眺める。ハカナはその瞳をじっと見て、ゆっくりと口を開いた。
「セレンは、どうして...、俺達の所に入ったんスか?」
「...え、あれ?僕、ハカナに言ってなかった?」
セレンはふっと視線をハカナへと戻し、それからにこっと音が付くような模範的な笑みで笑う。
「僕はねぇ、楽しい事――、予測できない事に興味があるんだよ。だから、予測できないような、面白いマフィアに入ったんだ、僕」
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