プロローグ

「ッ...どうするんだ、ゴードン」


 黒いソファに座ったまま、静かに赤いワインを飲んでいる七三分けの男へ、黒髪の男は焦った口調で問いかける。


「ローレンス・ファミリーの幹部補佐を行かせていたんじゃないのか?市営放送局の襲撃は予想してたんだろ?」

「それの予想はしていたが、そこの護衛が思いのほか使えない人間が当てられていた事に関しては知らなかった」

「...市民はお前の話の信憑性は勿論、経歴まで洗い出したぞ。このままだと...、バレるのも時間の――」

「案ずるな。もう、完成してる」


 その言葉に騒いでいた黒髪の男の口は止まり、静かにワインを飲み続けている男に視線を向けた。


「完成...って」

「あんな羽虫達の言葉に耳を貸す必要はないんだ。向こうは向こうで宣戦布告をしているのだろう。なら、それに答えてやってもいい。応えた上で、意思を殺してやる。全て、カノンの理想郷の為に」


「失礼いたします」


 そこへ、灰色の髪をオールバックにした黒コートの男が部屋へ入って来た。


「すみません。掃除をしていたもので、...本来なら私でなくてもよいのですが、問題が問題ですから、私が直接出向いてしまって...」

「いい。所詮、お前も俺も、カノンの理想郷の下では愚かしい人間でしかない。それに過去の事はもう取り戻せない。頭を上げろ」

「その言葉に感謝します」


 男は顔を上げ、それから自らの目の前にあるグラスを握り締めた。ぱきり、とグラスがひび割れて赤い液体が伝って落ちた。


「レミリット・ファミリーの若娘の件についてですが...、潰しておきましょうか」

「...屋敷に迎えろ。そこで迎え撃て。お前達の力を信用していないわけではないが、どこで尻尾を握られるか分からない。特に手下クラスになると、口を開く奴がいるかもしれない」

「そんな奴いない...と言いたいところでございますが、こちらとしても、任された仕事を出来ていなかった以上、その条件は飲みましょう」


 彼はワインでべたべたになっているのも気にせず、そのまますたすたと扉の方へ歩いて行く。


「楽しみに待っておいてください。...バルシィ・ローレンスの名において、あいつらを全員殺して見せますからよぉ」

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