プロローグ
冷たく暗い部屋の中で、黒髪の男が寝ていた。
その両手は鎖で壁に縫い付けられ、服は所々が裂けており、白い肌が見え隠れしていた。
男の眠っている部屋の中に、二人の人物が入って来た。
一人は露出度の高い服を着た、スタイルの良い女。もう一人は無表情で女の横に立つ白髪の男。
女は手に持っていたバケツの水を、眠っていた男へ躊躇いなくかけた。
眠っていた男は僅かに肩を震わせて、それからゆっくりと瞼を開けて、ギロリと女を睨んだ。
「おはよう、ゆっくり眠れたかしら?」
「あぁ?ンなわけねぇだろ。いつまで殴ってたと思ってんだ、くそ女」
「あらごめんなさい。あたし無駄な事は忘れる主義なの」
女はくすくすと笑う。男は眉を寄せるだけで、口を開く事はしなかった。
白髪の男は、手に持っていた一枚の紙を女に手渡した。
「......ンだよ、それ」
「あら、興味がおあり?...これは貴方の経歴が書いてあるのよ。...〈
フルネームで呼ばれ、男の目が揺れた。女は笑うばかりで、男の変化には気付いていないようだ。
「へぇ、貴方孤児院を襲った事があるのね?南アリステラのルーシャ孤児院」
その瞬間、男は唯一拘束されていない足を女に向けて思い切り蹴り飛ばす動作をした。しかし足は虚空を蹴り、手を縛る鎖が虚しく音を立てた。
「あら?図星かしら?」
「ンなわけねぇだろうがっ!それはお前らが勝手になすり付けて...!」
その視線で殺さんばかりに、男は女を睨む。鎖がなければ、女を殺しかねない勢いだ。
「罪なんてねぇあいつらを...!」
「んふふ、いいわね...その顔。たまらないわ...」
女はくつくつと愉快そうに笑い、ピラピラと紙をはためかせる。
「でも、世界は貴方の言葉よりも、他人のこの文字を信用するでしょうね」
「っ...てめ」
男が口を開くよりも早く、女が腰から鞭を取り出して頬を打つ方が早かった。
パシンと空気が裂け、男の皮膚も裂ける。
「あは、はは、あっははははは!!」
女は笑う。高く笑い続ける。
白髪の男は無表情で、男はグッと唇を噛んだ。
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