田舎娘の社交界

ゆりあ

本編

出会い



「あら、あなた、見ない顔ね?」


「初めまして。初めて、社交界に出席しましたヴィーエ男爵の一人娘、リランです。」


私より7歳くらい年上の、橙の長髪をしていて紫色の細長い瞳をしている、とても綺麗な方。


わたしは、今回が、初めての社交界ですけど、平凡なわたしを見て、見ない顔だと気付けるというのは、素晴らしい洞察力ですね!


「まあ!ヴィーエ男爵と言えば、庶民ながら、騎士団長として英雄になった方じゃなくて?」


「は、はい。今は、騎士団を早くに引退して、若い人達を鍛えながら、村に住んで、そちらの領主を務めています。」


えっ!?昔は、騎士団長だった、とお父さんが話していたのは、本当だったの!?


わたしは、向いてないらしいから、鍛えられていないけれど、村に住む男性陣の方々は、父に鍛えてもらっているわよね。


「あら、そうなの。英雄の娘なら構わないわ。わたくし、アール辺境伯の長女リゼッタよ。」


「リゼッタ様、よろしくお願い致します。」


アール辺境伯領は、わたしが生まれ育った村がある。つまり、ヴィーエ男爵家の寄親。


お父さんとアール辺境伯は、仲良しらしいよ。


あと、英雄の娘って、どういうことなのかな?


なんだか、大層な呼び方が付いてきましたが、わたし自身は、強くないですよ?





「わたくしには、二人弟がいるのだけど、隣にいるのは、わたくしの末弟よ。」


「初めまして。アール辺境伯の次男、リエールです。リゼ姉上共々、よろしくね。」


「リエール様、よろしくお願い致します。」


弟君リエール様は、同世代くらいで、金に近い琥珀色の短髪に紫の目をしている青年。


これは、巷で言われてる、いけめんとやらなのではないでしょうか………?


「ヴィーエ男爵のリオン殿って、村をいくつか領地にしている人だよね?」


「はい、そうです。中心部は、トマ村です。」


「村かあ。穏やかそうで良いね。」


「とてものどかですよ。」


中心部のトマ村に、我が家があります。男爵家ではありますので、お屋敷は立派なものです。


家族と、執事や侍女達が暮らしています。


「ねえ、リエール、リラン嬢は、一人っ子よ。この子なら良いんじゃなくて?」


「そうだね。確かに、良いかもしれない。」


お二人さん、何が良いのか分からないですが、この感じですと、長く関わることになりそう。


周りからの視線が痛いのですが、まあ、それは仕方ありません。 有名な姉弟なのかな?


「リラン嬢、もし宜しければ、なんだけどね、私と踊っていただきたい。」


「ええっ? わ、わたしと、ですか?」


「ええ、貴女と、です。」


ちなみに、わたしがいるのは、夜会という名の貴族のみが集う社交界である。


さらに、踊りたいという男性からのアピールは婚約者になって下さい、という意味。


っと、お母様が言っていたような気がします。


「婚約者はいません。辺境伯家のリエール様が男爵家の婿に?良いのでしょうか?」


「ヴィーエ男爵家に婿入りしたら、もちろん、辺境伯家が後ろ盾になる。構わないよ。」


「あ、あの、生活感が全く違うでしょうから、それが心配でして、大丈夫でしょうか?」


「ああ、それなら問題無い。騎士として、野宿出来るくらいだからね。むしろ、君のお父上と似通っているかもしれないよ?」


「確かに、お父様も野宿出来ます。わたしは、騎士に向いてないので、出来ませんが………」


そもそも、なぜ野宿なのかしら?この王国は、比較的平和だから、戦争も無いのに。


訓練などで野宿することがあるのでしょうか?


「両親だけではなく、叔母と7歳になる従妹も住んでいますが、宜しいですか?」


「もちろん。構わないよ。」


下流貴族と呼ばれる男爵家ですが、父親は平民ながら騎士団長になれた人です。


辺境伯のご子息と言えば、皆さん騎士団に所属しています。あ、もしかして、父親に弟子入りしたい、のでしょうか?


こう考えますと、婿入りするには最適ですね!


「あ、あの、リエール様っ!末永く、よろしくお願い致します!」


「こちらこそ、末永く、よろしくね。リランと呼んで良いかな?」


「はい!構いません!ありがとう存じます!」







「まあ!リエール、おめでとう。」


「ありがとう存じます。リゼ姉上。」


リゼッタ様にとって、今回本当に嬉しい出来事らしく、持っている扇子がパタパタしている。


淡い赤紫色のドレスも、薔薇柄の扇子も、派手だけど、よく似合っていますね。


「リランと呼んでもいいかしら?貴女のこと、わたくし、気に入ったわ!」


「もちろんですっ!ありがとうございます!」


義姉になる可能性がある方です。気に入られるというのは、嬉しいですね。


それ以上に、声を掛けてくださったこと自体が本当に嬉しいです。ありがとうございます!


「わたくしの事、姉と呼んで構わなくてよ?」


「はい!リゼ姉様、よろしくお願いします。」


「ふふふ。弟を、よろしくね。」






お二人とお話しをしていましたら、濃い橙色の短髪に紫の目をした青年が来ました。


おそらく、リゼッタ様のもう一人の弟さんで、リエール様のお兄様なんでしょう。


「リエールの婚約者が決まりましたわよ!」


「おおおおお!!リゼッタ姉上!本当か!?」


興奮気味に、リエール様に寄って来た。厳格な雰囲気が漂う青年。


今の騎士団の中で、エースと呼ばれてる方だと思われる。凄い人が兄弟なんですね!


「私は、アール辺境伯家の嫡男、リュエルだ。よろしく。お嬢さん。」


「は、はい、わたしは、ヴィーエ男爵の一人娘リランです!よろしくお願い致します!」


25歳くらいでしょうか。ムキムキの筋肉質。


細身に見えるリエール様とは兄弟のはずですが正直あまり似ていませんね。


「兄と呼んで構わんよ。リラン嬢。」


「は、はい!リュエル兄様!」






「わたくし、実は、来年の春、ミラール殿下に嫁入りをすることになったのです。」


「リゼ姉様、公爵夫人になられるのですか?」


ミラール殿下は、国王陛下の2番目の孫息子にあたる方。今は、28歳くらいの青年である。


ってことは、わたし、もし婚姻が成立したら、公爵夫人の義妹になるということ?


「ええ、そうよ。彼は、わたくしの幼馴染で、とても信頼出来るお方なの。公爵として正式に決まりましたので、婚姻出来るのです。」


「わあああ!お、おめでとうございますっ!」


「ふふふ。ありがとう。リラン。」


嬉しそうなリゼ姉様に、二人の弟も満足そう。


アール辺境伯家は仲良しな三姉弟なんですね。


一人っ子なので、わたしは感覚が分かりませんけれど、同じ家に住む従妹が婚約者出来たら、どういう気持ちになるんでしょう………?


「私は、幼馴染の伯爵令嬢、ミーファと婚約をしたから、来年の秋に婚姻予定だ。」


「リュエル兄様も!おめでとうございます!」


伯爵令嬢ミーファと言えば、学園に首席で入学した、と噂の?村にも伝わって来ていますよ!


智慧の本と呼ばれているエンゼルデン伯爵家。


その伯爵様の、唯一の孫娘だったはず。


「幼馴染と婚約をすることが多いのですね?」


「ああ、確かに、幼馴染や親友の兄弟姉妹と、ということが多いな。


もしかしたら、リエール様にも幼馴染の女性がいるかもしれない。


もし、そうなら、なぜ、わたしに婿入りを……?


「リエール様は、幼馴染の女性がいらっしゃるのですか?」


「いや、私の幼馴染は、ミーファ嬢の弟であるエンゼルデン伯爵家の嫡男ミールだよ。」


「リーエルは、婚約する令嬢がいなくて困っていたの!貴女がいて、本当に良かったわ!」


「こちらこそ、ありがとう存じます。」


たまに、隣の男爵家の領地に赴き、ご挨拶することはありますけれど。


あまり貴族の関係者が少ないんですよね〜〜。


「リランは、幼馴染、いるのかい?」


「ええ。レイーエ男爵家の嫡男、シールです。去年から、商家出身の婚約者さんがいるようなので、候補には入っていませんねー。」


えーっと、確か、オリバーさんでしたっけねー。


わたしやシールより、2歳年上ですね。有名な大商人の娘で、癒し系タイプの女性です。


「ああ、うん、それなら、大丈夫そうだね。」


「はい!わたしも、大丈夫ですよ!」


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