断罪天使
本田玲臨
序章 目醒 -メザメ-
目醒
カツンカツンと、小気味よい靴音を洞窟の中に響き渡らせながら、1人の男と、その男から3歩離れて歩く男がいた。
先頭を切る茶髪の男は、身なりは高級感漂う白のタキシードに、赤色のズボンを履き、取り外しのできる紅蓮のマントを身に纏っている。所々に散りばめられた金色の装飾が、彼を世間一般の人間とは一線を引いた人間であると分かる。
その男の後ろをついて歩く紫色の髪の男は、彼とは真逆と言っていい格好だった。動きやすそうな黒い上下のタキシードに、腰には金の柄を抱くレイピアを差している。目の前を歩く男よりも年上に見えるが、身分は下なのだと分かる。
「ここで待っていろ、アッシュ」
「...お1人で行かれて大丈夫なのですか、エリヤ様。私もついて行った方が...。何かが起こった時にすぐに対処出来るかと」
「大丈夫だ。今まで誰ともすれ違っておらんし、いざという時は大声でアッシュを呼ぶ」
茶髪の男に強い口調で言われ、紫髪の男は何も言わずに頭を下げた。それを見てから、茶髪の男は、奥へと進んで行った。
彼がしばらく進んで行くと、開けた場所に出てきた。
「.........なんと!」
そこは今まで歩いてきていた苔の生えた洞窟とは切り離されたような空間だった。美しく輝く透明な水晶の結晶が、地面や洞窟の壁や天井から所狭しと生えている。売れば一体幾らになるのか、想像もつかない。
だが、彼が目を奪われたのは、そんな"ちっぽけなもの"ではなかった。
その結晶の真ん中。1番巨大な結晶に埋め込まれた形で、女がいた。
長い絹のような濃い桃色の髪の毛。白いを通り越して、青白い病的な白い肌。服は現代の服装とは異なるように思えた。少なくとも、彼の普段過ごす神宮を歩いている人間では見たことの無い服装だ。民族衣装なのかもしれない。整い過ぎている人形のような美しい女だった。
しかし、彼はそんな女に目を奪われ、引き寄せられるように、ゆっくりと女に近付いて─その頬に触れた。
触れた次の瞬間、凄まじい地響きと共に洞窟が揺れ始めた。
「な、何だ...っ!?」
男は女に触れていた手を離し、近くの水晶にしがみついて振動に耐える。そこへ、
「ご無事ですか、エリヤ様っ!!」
紫色の髪をした男が走って来た。彼もまたこの光景に目を見張ったが、何も言わずに茶髪の男の身体を支える。
「逃げましょう!地震かと思われますゆえ」
「構わん。が、あの美しい人形を連れていく」
「は......っ!?」
紫色の髪の男は、茶髪の男が目を向ける人形のような女に目線を合わせた。
その時。
「「っ!?」」
女の紫苑色の瞳がゆっくりと開き、目覚めた。
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