第11話  クサ男(くさお)①

小噺を一つ


大学の時にバイト先の先輩に聞いた話。


先輩の通っていた高校には『クサ男(くさお)』呼ばれてたやつがいたんだって。


いじめられてたかどうかは知らんが、とにかく臭かったって先輩言ってたよ。


そいつどうやら、お風呂が嫌いとかいうレベルの話じゃなくて


お風呂に入るっていう概念自体が無い奴だったらしい。


何でそんなことが分かるのかっていうと、ほら、あるじゃん、


高校最大のイベント『修学旅行』が。


先輩とその友達数人は観光そっちのけで、


朝から集団浴場に興味深々だったんだって。


「クサ男どうやって風呂入んだろう?」ってさ。


で、いざ入浴って段になって、クサ男見てたら、とにかく挙動不審の一言。


キョロキョロ回りを見ながら、見よう見まねで服を脱いで渡されたタオルを持って


ただただ佇んでたらしい。


見かねた先輩たちが「クサ男早く入れよ」って促すとしぶしぶ浴場に行くって感じ。


ここまで聞いて俺、先輩たちひどいなーって思ってたんだけど


先輩いわく、「それ以上の悪臭を日々嗅がされてたから、こっちが被害者。


あれは公害レベル」ってことらしいので許してやって欲しい。


で、浴場に入ったクサ男は、やっぱりキョロキョロして佇んでたらしいんだけど、


しばらくして、周りの見よう見まねでタオルをおもむろに濡らして


ヌンチャクみたいに肩と腰を1,2回ペチペチ叩いて風呂の中に入ろうとしたらしい。


これには先輩たち全員「オイオイ」ってダチョウ倶楽部ばりに突っ込もうとした。


だけど、一番に止めに入ったのは監視員の担任の先生だったらしい。


多分先輩たち以上に、クサ男の入浴方法に気を配ってたんだろうね。


で、その先生が何をしたかというと、洗い場のところにクサ男を引っ張ってって


「いいか○○(クサ男の本名)タオルってのはこう使うんだ!」


って言いながら、思いっきりタオル泡立てて熱血指導。


先輩たち全員からスタンディングオベーションが贈られたらしい。


修学旅行ってそういうこと学ぶ旅行じゃねー!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る