深淵を覗いた者

暗黒騎士ハイダークネス

助け続ける、たとえ・・・この心が闇に沈んだとしても

 暗い暗い暗い、常闇の中。


 何も見えず、聞こえず、ただただ俺は彷徨い漂う。


 どこかへと向かって、なにか亡くしてしまった大切なモノを探して、漂う。


『おや?珍しいお客様ですね』


 闇の中どこからともなくその男とも女とも子どもとも老人とも思わぬ声が発せられる。


『ふむふむ・・・おやおや、まぁまぁ・・・ようこそ哀れな末路を迎えられた探索者よ』


 何を見たのか、何を聞いたのか、何を覗いたのか、それは自分に向かって話しかけてくる。


 闇の中は何も見えなくとも、確かにソレはこちらを見ている。


 そう本能がそう理解する。


「・・・・・・・・・」


 何を言おうにも口はひらかず、ただ空気が発せられるだけだった。


『ふふふ・・・愚鈍で哀れで滑稽な末路ですねぇ~ふふふふふ、ですから、ワタシが少し思い出させてあげましょう』


「・・・」


 だんだんと思い出してくる。


 何かを守りたかったという後悔。助けられなかった後悔。なにもかも己の力が足りなかったという後悔。


 血に濡れて冷たく動かなくなった愛おしい人。


 自分を庇って、敵の槍に貫かれた友人。


 家族、知り合い、住んでいた街。


 スベテスベテスベテスベテスベテスベテ


 ナクシテシマッタ


 マモレナカッタ


ジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケジブンダケ


 ただ1人生き残ってしまったという絶望。


 負の感情が抑えきれないほどに頭の中を駆け巡る。


『ハハハハハハハハハハ』


 愉快に楽しそうな喜劇を見るかのようにソレは嗤う。


 その絶望の中・・・ナニカが自分の中に溢れてきた。


 イキテ


 そう願われた想い。


 タノム


 そう友人から託された希望。


 ガンバレ


 そう励まし、背中を押してくれた勇気。


「そうだ、俺はこんなところで狂ってなんかいられない!!いてやるものか!!!!!」


 その光は徐々に1人の人間を形作った。


『おやおやおや、珍しいィ!素晴らしいィィィ!!!全てを失ってもまだ立ち上がり続けるのか!!!なんてなんて!素晴らしいィィィ!!』


「お前がなんなのか知らない!だが、俺は戻らなくちゃならない!!!そこをどけ!」


『アハハハハハ・・・このワタシになんと生意気か!だが、それでこそいい!!愚かで滑稽で馬鹿でこそニンゲンというものですよね!!あぁ・・そうです、そうですとも!!』


「・・・」


 俺はソコを後にする。


 だが、またそれから声がかかる。


『ですが・・・このまま行ったとしても、あなたシニマスヨ?』


「・・・」


 歩むのも俺は止めない。誓った想いを、託された希望を、みんなの勇気を思い出したから。


『死ぬのは怖いでしょう?痛いのは怖いのは苦しいのはイヤでしょう?』


 そんなこと何度も経験した。何度も嫌というほどに味わった。


 これは俺が行かなければいけない。亡くなった全ての人の為に、世界を救わなければいけない!


『これがあれば、死んだ人を救えるとしても?』


 その言葉に俺は一瞬立ち止まった。


 ソレを見逃すナニカではなかった。


『ですから、ワタシが力を知恵を・・・アタエマショウ、守れなかった恋人を、助けられなかった友人を!救えなかった人々を救えるだけの力を!!!!!』


『イタイ』『クルシイ』『タスケテ』


『タクマ!』


「うっ!?ゴホッゴホッ、うぇぇ・・・ハァ、ハァ・・・本当に救えるのか?」


『えぇ、えぇ、救えますよ???どうしますか?あなたはワタシの手をとりますか?とらずにその先へと進んでまた哀れで滑稽で・・・誰1人いない寂しい人生を繰り返すのですか????』


 俺は、そのナニカの手を取った。


 ナニカと交わり、俺の意識はどんどんとその闇の底へと沈む。


『私が祝福致しましょう。お誕生日おめでとう、これが新たな君の身体ですよ、ふふふふふ』


 薄れゆく意識のなかそんなことをナニカに言われた。


『ようこそ・・・探究者、深淵のその先へと』














 少し意識が飛んでた、ヤバい。


 そんな隙をあの狂った野郎が見逃すはずもなく、今にも撃とうとされるライフル。


「!?」


「危ない、拓真!!」


 そこに俺を突き飛ばそうと来るつばさ。


 バンッ


 その発砲音とともに放たれる凶弾。


 死ぬ時だからか、やけにそのスピードは遅く感じた。


 横を見れば、必死に手を伸ばすつばさの姿。


 ・・・??ん?なんか避けれそうな気がする。


 上体を逸らし弾丸を避け、つきそばそうとするつばさを片手で遠くの柔らかいとこに投げた。


「なに!?!」


 驚く野郎を一気に距離を縮め、顎を一閃し、意識を刈り取った。


「ふぅ・・・」


 そうして、この事件は終わった。


 その後に、駆け付けた警察の事情聴取やらなんやかんやあって、その後にあの時の全てを思い出した。


 俺は願ったんだ。全てを救える未来を。


 その結果、俺はつばさを助けられた。


 次は・・・友人を、家族を、街を守ろう。


 今の俺にならできる。


 来るべき未来の前に全てを終わらせてやる。









 俺は前の仕事を務めたままじゃ、自由に動けないということで、退職し、フリーランスの個人探偵をやることにした。


 そんなある休日の午後昼下がり、事務所で面倒な書類を整理しながら、ちまちまと作業を・・・全部つばさにやってもらって、隣で俺は横になって、寝ていた。


「ふぁ・・・」


「もう拓真ったら、疲れているのは分かるけど、もうちょっと書類やろうよ・・・はぁー仕方ないんだから」


 ぐちぐちと俺の方に不安を吐きだしながらも、なんやかんやで手伝ってくれる俺の愛おしい彼女。


 そう寝ている間に、解決してきた様々なことが頭の中に浮かんでくる。


 孤島で友人を殺す元凶も、街を恐怖に陥れるカルト宗教も壊滅させた。


 そのせいなのか、毎回オカルト関係を解決しているからか、その界隈では有名な探偵となっているらしく・・・だいたいくるのはおかしな魔方陣やら、悪臭が漂う無人の屋敷や、カルト宗教など、危ない匂いのする案件ばかりだ。


 そんなこんなで、事務所を空けがちになってしまうのが、俺がいる休日は彼女は俺の探偵事務所の書類仕事を手伝ってくれる。


 あの記憶を思い出した以降、周りとは距離を置いているのに・・・こいつは俺が何を言ってもそばに来て、一緒にいてくれる。


「あ!そうだ、たくま~」


「ん?」


「はい!お誕生日おめでとう!」


 手渡された箱を開けると中身は靴だった。


「最近いろいろいってて、靴擦り切れてるでしょ?動きやすい風なの選んでみたけど、どう・かな?」


 そう上目遣いで小首をかしげながら、そう尋ねてくる。


「おぉ~助かるわ~ありがとうな・・・つばさ」


 そう頭を優しくなでる。


「えへへ~それと~これ!誕生日ケーキね」


 ちょっと顔を照れくさそうに、はにかむ彼女。

 そうか、今日はやけに大きな荷物を抱えていると思ったら、今日俺の誕生日だったんだよな。

 そうして、手早く紅茶を入れて、食べる準備をしてくれる彼女。


「ん~美味しい?」


「あぁ・・・そうだな、つばさと一緒に食べる時が一番美味しいよ」


 そう笑いかけると、照れ隠しに背中を軽く叩かれる。


「!?もう!!拓真ったら、それなら毎日作るよ!」


「それは遠慮しとくよ、毎回ケーキはな、ちょっとな」


 そう遠慮すると彼女はこう言った。


「そこはそうじゃないでしょ!!」


 答えに不服なのか、頬を膨らませて、こっちを可愛く睨む彼女。





 彼女が帰った姿を見送りながら、コーヒー缶を買う。


 飲み終わったら、いつものようにそれを確かめるように片手で軽く押す。


 そうしたら、グチャリと簡単に潰れるスチール缶。


「はぁ・・・」


 そんな自分の力を見て、溜息を吐く。


 あの時の救える力として


 何物にも負けることのない強い力。

 誰よりも速くかけつけられる足。

 何度攻撃されようが、決して倒れることのない身体。

 何事にも動揺しない強靭な精神。


 様々な力をアレからもらった。


 だが、決してそれはタダというわけではなかった。


 代償に味覚と俺の中から様々な感情の名が消えた。


 つばさの姿が完全に見えなくなると、俺は探偵事務所から遠くない自分が買った家へと帰る。


 ここには様々なカルト集団から捕ってきた魔導書や、色んなアーティファクトが保管されていた。


 裏の世界からすればお宝の山がそこにはあった。


 そんなものには目もくれず、ただ立てかけてある写真立てに向かって、こう言う。


「もうお前らがいる表が俺の日常じゃなくて、裏が日常になっちまったのにな・・・なんであいつは俺と関わり続けるんだろうな」


 会うことを避けている友人や家族の姿をなぞったあと、おもむろにチョークを拾って、床に魔方陣を描き始めた。


 完成した魔方陣の前で俺は常人には理解ができない言語を呟きながら、醜い怪物を召喚する。


「つばさに気づかれないように守れ」


 そう命じるとその怪物は消えていった。


「ふぅ・・・」


 一仕事を終え、つばさのことを考えながら、ベットで横になる。


 そうすると、少し暖かい気持ちが湧きだしてくる。


 この暖かい気持ちがなんなのかはもう俺には分からない。


 ただこの胸に宿る暖かい気持ちをなぞりながら、今日もまた俺は影から彼女を見守る。


 たとえ俺自身が醜い化け物に成り果てようとも、彼女だけは守ってみせると空っぽになってしまった心に誓って。


 ただただ彼女の幸せを祈って、今日もまた生きていく。

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