雨夜に百合
本田玲臨
第一ノ雨 ぼくは打たれる
ぼくは土砂降りの、バケツをひっくり返したように降る大雨に打たれながら座っていた。頭の先から足の先まで、濡れていない所は無い程びっしょりと濡れ、黒い髪の毛は首筋に張り付いている。ぼくは顔を上げた。雨に打たれることなんか気にしないで。
雨というものは大気中の水蒸気が冷え、雲を形成し、それから水滴が生まれ降り注ぐ。それが雨だ。だが上を見上げても灰色の空は無く、星の無い日の夜の恐ろしい真っ暗闇が広がっているだけだ。雨宿り出来そうな建物は見当たらず、ぼくは雨に打たれ続ける。ぼく1人だけの世界に、雨は絶えず降り続ける。
その時だった。
「覚めたか」
突然、ぼくの世界に変化が起こる。ぼくが発した訳では無い、平坦で落ち着いた声音。振り向くと、ぼくと雨だけの世界に、1人の人間が登場人物として増えた。
年齢はぼくと同じくらいだろうか。整った顔立ちをした少年にも見える少女。冷たい瞳は鋭く、その顔立ちからはやや浮いている。服装は白いシャツ以外は黒く、この雨の世界に溶け込んでしまいそうだった。
"少女"という変化にぼくは目を丸くした。
しかし、少女は無表情で、ぼくを見下ろす。まるで興味が無いように、そういうものはどうでもいいもののように。
「君は強い願いを抱いて来た。私はそれを叶える為にここへ来た」
淡々と、少女はぼくへ言う。
「今から君は試練を受ける。それを合格すれば願いは叶う。......それだけ」
試練とは何か。ぼくは少女へ問おうと口を開く。が、口から生まれたのは確かに自分が生きているという証を示す呼吸音のみで、声は発さなかった。
ぼくは声を出せない病気を患っているのだろうか。ぼくの中の記憶を探ろうとするが、まるでそれをするなと制止するように、少女はぼくの眼前に手を差し伸べてきた。
「手を」
先程とは何も変わらない態度と言い方なのだが、有無を言わせない威圧感を纏っていた。
ぼくは少女の手を取った。瞬間、身体を引き上げるように力強く、少女は腕を引いてきた。
そこでぼくは、少女の身体がどこも濡れていない事に気付いた。
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