第4話 シワタはモテる系



ザウティスがうっうっ、と泣き出すとタロウは困惑しだした。毎日毎日自分のことを散々虐げてきたくせに銃弾で打たれて怖くなったのか今更謝っているのか、と顔をこわばらせている。すると白いシーツに血のかかった保健室のベッドで起き上がったザウティスが鼻水を垂らし、嗚咽をしながら下にうつむいてポツポツとまた話し出した。


「タロウ、お前が入ってきたとき顔の出来が少しいいからって一言悪口を言ってしまったんだ。そこからどんどんタロウに対する悪口がみんなの中で広まっていって……ごめん、本当にごめん。」


タロウはそれを聞いてもなんとも思わなかった。何を今更謝って、どんだけ自分が傷ついたのか知りもしないのに、謝れば済む話ではない、負の感情が一斉にのしかかるとタロウが歯を強く食いしばり、ザウティスの胸ぐらを掴んだ。


「ちょ、ちょっと!喧嘩だけはやめてよね!?」


ベルがその間に割って入ろうとしたが、タロウが反応する前にザウティスが反応した。


「いいんだ。俺が悪かったから。これくらい別にタロウの苦しみに対したらへでもない。」


タロウが大きく拳を振りかざし、ザウティスのほおを思い切り殴った。するとタロウは掴んでいた胸ぐらを離し、殴った拳を下ろしてザウティスを軽蔑したかのような目で見た。


「今更、何言ってんだ?」


タロウは冷めきった言葉で、突き放した口調でそう伝えると、ザウティスはその軽蔑的な目と目を合わせてやっぱりと息を吐いてもう一度だけ、タロウの方を向いて、涙声で一言だけ残した。


「けど、お前のクラリネットの音は、大好きだったよ。」


こんなクズはもう知らないと振り返って救護室を出ようとしたタロウにか細い声が聞こえた。驚いて声の主のザウティスを見ると赤く腫れたほおが目に入った。動揺を混じりて、瞳をかすかに揺らしながら体を固めているとザウティスがうつむきながら泣いているのに体をさらに固めさせられた。するとジャックの声が聞こえる。


"タロウ。お前は頭に血が上って気づいてねえか覚えてねえかかわからないがお前に暴力を振っていた時の奴らの中に、こいつはいたか?"


ジャックに言われた通り、フーッと一度吐いて深呼吸すると自分の記憶をかけ巡らせる。一回目、男子トイレで水をぶっかけられた時、……いない。2回目、3回目、4回目…………、そして今日までの回数を数えをきると、あることにタロウは気づいた。


"い、ない……"


ジャックがその声を聞くと同時にフッと笑い、タロウの動揺した心の間を通ってぼそりと伝えた。


"じゃあ、そのザウティスって奴は一回しか悪口言ってないらしいからその言った悪口を聞いてみれば?"


タロウはその活発そうな少年の声を持つジャックの声に頷くとザウティスに問いただした。


「……ザウティスはが言った僕の悪口はどういう内容だったんだ?」


そう聞くとザウティスは迷うことなく、まっすぐした目でタロウを見ながら答えた。


「「タロウって奴の顔の出来がよすぎ」ってちょっとつめたいかんじにいったんだけども……。」


ザウティスが言うと答えを聞いた瞬間、タロウがぶーっと吐き出した。あっはっはっはっは、と笑い転げているとベルが目を極端に細めながらタロウを見て何か汚いものでも見ているかのように言う。


「ちょっとタロウ……今のは汚い。」


ベルの目が金の色にキラキラ光っているが、その時だけ、何故かギラギラ光っているように見えたのは置いといて、タロウは笑いが収まると息をたくさん吸ってザウティスの目線に合わせてしゃがみ、静かな口調で話した。


「ごめん、僕こそあまりわからないで一方的にお前が悪いだのお前のせいだの言うような目で見たり言葉で出しちゃったりして。けどこれでザウティスは超がつくほど優しいってわかることができたよ。うん、許す。」


にこりとザウティスに向けて微笑みかけると、案の定そのザウティスが一気に涙をためて行き、


「俺の一言が悪かったんだああああ!!!でも、許してくれてありがとうなああああああ!!!!」


だばーっとたくさんの涙を流しながら近くにいたタロウをの手を強く握りしめると鼻水や涙がタロウの手の上に落ちてくる。一見、普通の一般人が見たらタロウが貴族でザウティスが平民に見えてしまうだろう、そんな光景だった。クラスメイトのベルも汚い、という目で見ながらも仲直りしたならいいわ、とどこかに嬉しそうだった。そして救護室の隅にはこの輪から外れた校医が悲しそうに冷たい水を一口飲んでいた。


大事をとってザウティスを保健室に置いていき、試合場にタロウとベルの二人で戻るとまだ模擬試験が続いていたみたいで戦闘を行っている人がいた。輪になっている観戦席の一番後ろに着くと戦っているのは(ザウティスの)取り巻きvs(ザウティスの)取り巻きだった。二人は同じ炎魔法の使い手であるらしく、剣術も取り入れて戦っていた。鈍い音を鳴らしながら戦っているのを見ているとふとベルの順番が気になる。一応もらった対戦表の紙を見るとベルはどうやら最後らしい。ここの戦いは最後から2番目、つまり次はベルだということだ。ベルをちらりと見ると武器の準備をしているのに気づく。その武器をよーく見ると白い玉の入った大きい木の杖と黒の玉が入った大きい木の杖が並んでいるのが見えた。一体なんなのかはあまりわからなかったが次の試合でわかるだろうと今の取り巻き同士の試合を見ていた。

結果、両者ダウンで引き分け。



「最終戦、シワタ対ベル」


そう言われるとシワタという男が左サイドから出てきた。スタイリッシュな杖を持っている。甘ったるい顔を髪を持つ高身長の同学年の少年はクラスの中でも少ない女子がきゃーっ、きゃーっと騒いでいるのに手を振っていた。タロウは察した。こいつは女子にモテる系なのか、と。じーっと見ていると気持ち悪そうに見られたのだが気にせず気にせず(みんなちっちゃいから)、ベルが右サイドから出てくると奥の方から「ベル、がんばれー!」という女子の声が聞こえた。どの人かわからずにいるとベルがその女子生徒に向けてぐっちょぶポーズを返す。するとシワタ推しの女子たちがベルに聞こえるくらいの大きな声で暴言を吐いた。


「うふ、ベルがシワタ様に勝てるわけないじゃないの。シワタ様は高難易度の溶岩魔法が使えるのにベルは白魔術だけww白魔術ので出だからってこういう模擬では勝てませんのね〜www」


くすくすと笑っているとベルが目を静かに光らせていた。持っていた杖が揺れている。どうやら一つの杖に黒と白の玉を入れたらしい。教師が初め、と声をかけると早速シワタが魔法を繰り出した。


『ハンド・ステッキ・ア・ロット・オブ・ラヴァ』


するとシワタの杖からたくさんの溶岩が出てきた。それを確認すると杖をグルングルンと回し、遠心力をつけてその溶岩を飛ばした。ベルはそれを避けずに白魔術で壁を作って自分の身を守っている。


『ハンド・ステッキ・ウォール』


何度続いたのだろうか、シワタが息切れをし始めるとシワタ推しの女子たちがいきなり叫び出した。


「ちょっとベル!早くとどめを刺してもらうか降参するかどっちかにしないさいよ!」


怒りも混じりたその言葉にベルはカチンときたのかいきなりゆらゆらと揺れ始め、その女子生徒たちを下から見下ろして楽しげに言った。


「じゃあ、お言葉通りに早く終わらせるね。」


そう言うとベルが杖を自分の前に出し、術式を唱える。


『リリース・イン・ザ・ダブル』


だが何も起こらない。シワタ推しの女子生徒たちが何もないじゃないの、笑っているとベルはシワタに話しかけた。


「ねえシワタさん。私の家って白魔術を得意とする家って知ってますよね。」


「ああ、もちろんとも。そして君はその白魔術を大の得意とする。」


「わかっていらっしゃっているなら結構。それなら私の母はどこの出のものか存じておりますか?」


「さすがに君のお母様はどこの出のものかは知らないね。」


女子生徒たちがくすくすと笑っているととどめのかのようにベルはニコリと笑った。


「では、教えて差し上げましょう。この魔法でッ!」


ベルが自分の持っていた杖の後端部を地面に強く叩きつけると頭上にとても大きな溶岩が球になって現れた。シワタを見ると口元をピクピク揺らしながら杖を落としている。女子生徒たちも驚いてしまって腰を抜かしている人もいた。


「私のお母様はね、レヴィウィンダム家の者です。そう、黒魔術の本家のものがね!!」


杖をシワタへと向けると溶岩が一気にシワタを襲った。そう、ベルは白魔術と黒魔術が使えたのだ。対義するこの魔術だが、両方を親に持つベルは使えないわけがないとどやっている。泡を吹いて黒焦げになっているシワタを女子生徒たちが一生懸命お世話していた。ベルは試合会場を降りると、おそらく応援してくれていた女子生徒だろうものがベルに駆け寄ってきていた。


「わあー!ベル、すっごいねえ!」


栗色の髪にツインテ、桃色の瞳を持つトイプードルみたいな少女がベルの隣に着くと小型犬のように笑顔でワンワンと吠え出した。男性的本能だろうか、自然と顔から目線を落とすとそこには大きなメロンを二つ吊り下げたかのようなものが確かにそこにあった。

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